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慢性痛の正体

2018年2月6日
ニューズウィーク
技術とサイエンス
BY KASTALIA MEDRANO


線維筋痛症のような慢性痛は意識の病気なのか。多分解決のヒントは医学よりむしろ物理学から来るかも知れない。

ネットワーク科学の領域の中に”爆発的同時発生 explosive synchronization ”と呼ばれる現象を研究する部門がある。即ち、普通の刺激に対してネットワークが過剰反応する現象を研究する。ネットワークはこの場合、コンピューターであり、電力供給網であり、付き合いの輪でもあるが、このページでは我々の脳を語る。

最近、物理学者、神経学者、麻酔専門家、慢性痛研究者が集まり、ネットワーク科学の研究を進めている。目的は、治療法がない線維筋痛症=ibromyalgiaの原因究明である。 線維筋痛症とは、理由の見当たらない慢性痛を起こす病気で、それほど珍しい病気ではない。最近レイディーガガが発病して注目が集まっている。

雑誌ネイチャーに発表されたこの研究では、10人の女性の線維筋痛症の患者の脳波を検査している。予想通り、彼女達の痛みは常識を超えていて、痛覚刺激ばかりでなく、視覚、聴覚の刺激でも痛みを覚えた。線維筋痛症の患者は、ちょっとした刺激に”爆発的同時発生的ネットワーク異常”を起し易い。これは、小さなショートから、全体の電力供給網がダウンしてしまう現象に似ている。

「貴方が私の手に触っても私は驚かない。しかし 線維筋痛症の患者はそれを痛みと感じてしまう。 線維筋痛症のような慢性的痛みを起こす病気は、体の病気と言うより、意識の問題と考えると良い」とミシガン大学のジョージ・マシュアー氏は言う。

ドアーに手を挟んだ時に感じる痛みは本能である。しかし、線維筋痛症の患者の感じる痛みは、幻聴を聞く統合失調症の患者のようで、痛みの原因は脳の中にありそうだ。

「この痛みが架空とまで言わないが、物理的に起きたものではないのは確かだ。患者には実際の痛みとして感じるが、実は幻覚に近い。研究して行くと、意識とは何であるかの問題に踏み込まざるを得ない」 とマシュアー氏はいう。痛みは本質的に意識の産物であるのは、全身麻酔を例に取ると分かる。手術の最中は全身麻酔でも、体は痛みを感じている。しかし意識がないから本人には痛みとして感じない。

ここで研究は麻酔に注目する。 爆発的同時発生現象は、脳があるステージからあるステージに移行する時に起きやすい。全身麻酔から覚める時がこれに似ていて、脳は不安定な状態になり、少しの刺激に過剰反応をする。これが線維筋痛症の患者に近い状態であろうと推測されている。多分線維筋痛は、単に無意識から意識状態に回復するのではなく、無意識から過剰な痛みを伴う意識状態に戻るのだろう。

今の所、線維筋痛症の痛み根本的に止める薬はなく、 線維筋痛症用の痛み止め薬を使っている。物理学では、爆発的同時発生現象をコントロールできるが、脳は余りにも複雑でコントロール出来ない。しかし、治療法を求めて研究は進んでいる。



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