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ゴミ屋敷問題

NEWSWEEK
2011年1月26日版


ゴミ屋敷の住人はその子供に心理的にも物理的にも大変負担をかける。ここに紹介するのは、シカゴのある家で実際起きた住人が自分のゴミに生きながら埋まってしまった例である。

グレッグ・マーチンは、彼の母が死んだ時、18年ぶりに自分が生まれた家であり母が住んでいる家に戻った。この家はサンディエゴのしょうしゃな一画に建っているが何時もゴミでいっぱいであった。「ゴミの高さは私の背丈ほどで、床もゴミで40cmほど高くなり、僅かに歩く小道が存在していた」とグレッグは言う。家の中に入っても、山のような雑誌、紙、本、ビニール袋、薬の瓶、古着の山等で埋まり、押し分けて進まないとならない。僅かにあった隙間は玄関のドアーの一画で、そこで彼の母は息絶えていた。享年83歳、彼女はちょっと派手好きで決して人に頼らない性格であった。彼は急遽仕事を休んで駆けつけ家の片付けを開始したが、最初6ヶ月もあれば片付くと思っていたのが、既に8ヶ月経過しても終わらない。

これがゴミ屋敷の住人が死んだ時に子供がもらい受ける負の遺産で、葬式やお悔やみを遥かに超えた問題になっている。長い間にため込んだゴミはすさまじく、戸棚、家、車庫と、ありとあらゆる場所がゴミでいっぱいになっている。ため込んだものは多種多用だが、誰が見てもガラクタばかりである。
物をため込む性癖は10代に始まると言われている。専門家によると、強迫行為、脳の損傷、激しい心理的ショック、鬱状態によって引き起こされたり悪化したりする。

「私は親が死ぬことより、あの家のゴミの方が心配だった」とカナダのウィニペッグ市に住むテレサは言う。今回このゴミ問題で筆者は多くの人にインタビューした人が、彼等は共通して苗字を言わない。如何にゴミ屋敷が彼等の生活に深刻な影響を与えているか分かる。テレサに取って親のゴミは将来の深刻な問題だったのだ。

ゴミ住人の特徴は、まず必要でないものをやたら手に入れようとすること。集めたものを手放さない、整頓しない、何が重要であるかの順位付けが出来ない等で、自分の性癖が治療対称であると思わないから病院にも行かない。従って説明できる人も統計情報もない。しかし、最近ゴミ屋敷を特集したTVショーが人々の関心を呼び、次第にその実態が明らかになってきた。直接間接にアメリカでは数百万人の人がこの問題に迷惑受けていて、支援グループや掲示板にも情報が寄せられている。

コロラド州に住むビルのケースでは、彼の母が卒中で倒れて介護施設に移ったが、残されたゴミの山を整理するのに既に5年も奮闘している。8個の大型のゴミ収集容器を持ち込んで10人がかりで一階のゴミを整理した。これから2階と屋根裏、地下室、車庫を整理するが、容易な作業ではないであろう。

残念ながらゴミをため込んだ順を知っているのは本人だけだから、一体何処に株の購入証書があるのか、ダイアモンドが何処にあるのか分からない。「次回は整理のプロを連れて家に行くつもりだ。もう、大事なものを探している余裕はない。そんなことをしていたら10年後も片付けているだろう」とビルは言う。

カリフォルニアでゴミ屋敷整理専門の会社を経営しているコリー・チャルマーによると、一軒の整理金額は50万円から200万円で、ゴミの状態や部屋の条件、ため込んだ物の危険性、電気製品ならリサイクル費用等により増額になると言う。彼のゴミ整理チームは時々換金可能なものを発見するが、多少費用の減額に役立ってもゴミの多さに殆ど役立っていない。「年配のゴミ屋敷住人は“無駄なものなんかない。これを息子にやりあれを娘にやる”と言うが、だれもそんなもの欲しくない」とコリーは言う。

ゴミ整理も一挙にすっきりとは行かない場合もある。サンディエゴに住むグレッグは最近ゴミ整理の進行が遅れている。理由は、ゴミの中に母が1972年当時から集めている彼に買った衣服のラベルや、レコード盤、テープレコーダー等を発見したからだ。彼自身も母同様、ゴミをため込む性癖があるのを認識しているから、この作業を願ってもない機会と見ている。彼の彼女であるシドニーも彼の性癖の改善をブログに書いている。グレッグは価値のありそうなものを整理して、イーベイや不動産販売で売ろうと今考えている。

「ゴミ屋敷の住人は自分の息子にゴミを残したいなんて考えていないと思う。単にゴミが子供にどんな影響を与えるか考えが及ばないだけだろう。本人には愛と粘りでゴミ集めを止めさせるように説得して、出来たら専門のセラピストを訪問するべきだ」とニューヨークの生物行動研究所の心理学者であるフーゲン・ネジローは言う。しかし彼女自身、問題の解決が容易でないことは十分認識している。多くの場合は結局その時が来るまでは手の打ちようがないのが現実だ。

ニューヨークのニューロッチェルに住むキャスリーンは、最近母が卒中で倒れて、それ以来行動を開始した。彼女はゴミ処理チームを引き連れて母の家に何年ぶりかに入り、手当たり次第にゴミを整理した。母は彼等の行動に対して怒りを示したが、無視して整理してやっと家の中が歩けるようになった。「このままでは母がゴミで埋まってしまうし、もう我慢できなかった」と彼女は述懐する。



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