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即効性抗鬱剤

NEWSWEEK
2014年4月30日版
By Victoria Bekiempis
最新の研究によると、1990年代に麻薬として有名になったケタミンが、その即効性と抗鬱効果から、有力な鬱剤としての可能性が出てきた。
未だこの薬物は動物実験の段階で、実際の応用には多くの問題を解決しないとならないが、今やアメリカ人の10%が罹患すると言われる鬱の治療に朗報になるだろう。

既存の抗鬱剤であるプロザックは、セロトニン再吸収阻害剤と言われ、以前の抗鬱剤に比べて患者の負担が大幅に軽減されている。しかし、効果が出るまでに一か月かかるのが問題になっている。また、薬と患者の適合性も探らなければならないので、効果が現れるまでに時間がかかる。鬱は多くの場合慢性であるが、短期の鬱も存在するから、効果が表れるのに1か月もかかるのでは意味がない。

時々鬱の患者に、ベンゾジアゼピンのような抗不安剤を与えるが、習慣性が強く、抗不安剤ゆえに、むしろ神経症に向いている。しかし、本質的には過去30年間も新しい抗鬱剤が出ていないことが問題だ。

このケタミンを研究している、ローズマン大学のジェフェリー・タルボット助教授は「既存の抗鬱剤は比較的安全で患者に負担がないが、効果のない患者が多い。世界の患者は即効性の抗鬱剤を求めていて、ケタミンのような薬が開発されれば、患者に朗報になり得る」と言う。
ケタミンは、1990年代にその幻覚作用からスペシャルKの名前で街中で売られていて、今でも動物の麻酔薬として使われている。

「ケタミンは抗鬱効果が24時間以内に現れるが、薬物依存を誘発しやすく、経口摂取が出来ないから治療には向かない。しかし、ケタミンの作用機序には既存の抗鬱剤にはない特色があり、これを応用したい」とタルボットは言う。

ケタミンは、神経伝達物質3種であるセロトニン、ノルエピネフィリン、ドーパミンの再吸収を同時に阻止するので効果が高い。既存の抗鬱剤は、この三種の神経伝達物質の内の一つか二つにしか効かない。
タルボット等がケタミンに注目するのは、ケタミンはすばやく効果を出て、しかもその効果が長期に持続する点だ。これは患者に取っては大変ありがたい。

フロリダに住む25歳のジャーナリストであるデイリナ・ミラーは、学生のころ鬱に悩んでいた。ミラーは、悩み多き十代位に考えて無視していたが、大学に入ったころからいよいよ困難な状況に陥った。外目には学校に通い、家族に援助され、車も運転してと、何不自由ないように見えたが、実際は朝の目覚めが悪く、ベッドから起き上がれないため、しばしば早朝のクラスに出席できなった。真っ黒な雲に吸い込まれて行くような感じだったと当時を述べている。

いよいよ追い込まれたある日、彼女は医者に行く決意をした。彼女の症状と家族の病歴から医師は鬱病と断定し、プロザックを処方した。プロザックは、その効果が現れるのに4週間はかかると医師は彼女に通告した。最初に時間がかかると言ってくれたので我慢したが、やはり時間がかかるのが不満だったと彼女は言う。

「もし一日か2日で効果が出るものがあったら、間違いなくそれが欲しかった。薬を飲みつつ、やっとの思いでクラスに出席したが、残念ながら成績はBとCばかりであった」と彼女は語る。

1993年に出版されて一大ヒットした”プロザックを聞け”の著者であるピーター・クラマーは、この即効性抗鬱剤には批判的である。彼も、現在の抗鬱剤は効果が現れるのに時間がかかることを認めるが、3時間から4時間で症状が軽快する場合もあると言う。しかしそれは多分、偽薬効果か錯覚だろうと言う。



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