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煽る拒食症サイト

NEWSWEEK
TECH & SCIENCE
2016年6月23日版
BY MIKE MARIANI


拒食症サイトや掲示板は、拒食症の患者に安らぎを与える場ではあるが、患者を悪化させる場所でもある。

2010年、アレックス・チャーニックは、彼の妹のナタリヤに”少し太ったね”と言った。二人はいたずら好きで、この位の事はでは動じないが、この軽いジャブが、兄のアレックスの最後の言葉になってしまった。その年彼は18歳で自殺し、ナタリヤは15歳の時であった。ナタリヤとアレックスは本当の兄妹ではなく、ロシアの異なる夫婦から、コネチカット州チェシーアーに養子として引き取られている。

彼の自殺後、ナタリヤの頭にアレックスの言葉が焼き付き、”アレックスを幸せにしなければならない。そのためには体重を減らす”が強迫観念になってしまった。ナタリヤは以来、食品ラベルを食い入るように見つめてはカロリー制限し、健康ダイエットが次第に飢餓ダイエットに変化した。その一方、癒しを求めてソーシアル・ネットワーキング・サービスのタンブラーに行き、拒食症関連のページを読み漁った。ここで”痩せるほど素晴らしいことはない”の確信が芽生えた。

アレックスが死んだ僅か3か月後には、体重が40sに痩せ細り、両親は彼女を医者に連れて行った。病院では内視鏡で彼女の消化器を検査したが、”体の何処にも病変はない。貴方は拒食症です”と医者は言う。

数ある心の病気の中でも拒食症は最も死亡率が高く、患者の死亡率は一般の人に比べて5倍も高い。統合失調症は2倍から3倍であるから、拒食症の死亡率が際立っているのが分かる。更に怖いのは、15歳から34歳の拒食症の患者で、普通のその年代の女性に比べて、18倍も自殺率が高い。拒食症の全国的データがないので、実際は更に悪いのかも知れない。

実際の数字が更に悪い可能性があるのは、拒食症で死んでも原因を拒食症とせず、心不全とか不整脈、呼吸不全、自殺にしてしまうからだ。このように統計的に危険のサインが出ているのに、拒食症は今まであまり取り上げられなかった。摂食障害に対する予算は十分でなく、アメリカ国立衛生研究所は、統合失調症の研究には患者一人当たり159ドル支出するのに、摂食障害の研究には僅か1.2ドルに過ぎない。

しかし、過去数年で摂食障害は急激に注目をあびるようになった。その理由はインターネット空間の広がりである。2010年頃から、ハッシュタグ付きの”シンスピレーション”や”シンスポ”が、ソーシアルメディアで流行した。ここでは未だ体のイメージを云々する場所であったが、その後、拒食症を煽るような有害なサイトが現れるようになった。拒食症、過食症の擁護サイトとも言うべき場所で、露骨に摂食障害の患者に誘いをかけ始めた。この暗いインターネット空間では、痩せの追求は一つのライフスタイルになり、彼等は隠語を使って会話をし、摂食障害の患者には聖地となっている。アメリカ摂食障害協会のホーリー・ホッフがこのようなサイトを見て、”自殺志願者に弾丸入りのピストルを渡すようなものだ”と非難した。

最新の"精神障害の診断と統計マニュアル"では、拒食症を、常識を超える体重減少と、太る事に対する異常な恐怖と不安としているが、その原因については言及していない。しかし、専門家の中に原因を説明する人が出てきている。

ジョーン・ホプキンス大学・精神障害プログラムのアンジェラ・ガーダは、次の様に説明する。
「拒食症の原因として3つが考えられて、一つは遺伝子で家族に拒食症の人がいる場合、発症しやすさは通常の10倍に上る。二つ目は、発症を引き起こす因子で、ダイエット、生真面目なジョッギング、思春期の女性ホルモンの分泌がそれです。三つ目は持続因子で、食事、体形に対する異常な拘りと、飢えから来る脳の変化です」と言う。
ディッキンソン大学の心理学のサマン・アムブワニも「拒食症の人たちの脳に異常が起きている。飢えが脳を変化させ、変化した脳が判断を間違える」と言う。

長期間、脳が飢えを経験すると、認知機能が衰え、判断力が低下し、集中できなくなる。これが事態を更に悪化させるため、拒食症とは、悪循環を内に秘めた病気と言える。
イングランド大学サフォックキャンパス助教授のエマ・ボンドは、拒食症サイトを2012年に調査して、その状況を次のように述べている。
「彼等は社会から隔絶されていると感じる。そう感じれば感じるほどサイトを読み続け、鬱状態が酷いほどのめり込む。正に悪の連鎖反応で、拒食症サイトは、この傾向を煽っている」。

拒食症が他の心の病と大きく違うのは、彼等が特有の言葉を使って空想の世界に逃避していることだ。多くの関連のブログやサイトは、拒食症を自己実現の最大のチャンスとまで言う。激やせを擁護し、その徳を説く。やせ衰える体、空腹で音を立てる胃、飛び出す骨を見て恍惚となる。拒食症の患者の多くは10代から20代の女性で、拒食症だけでなく、薬物中毒、鬱、自殺願望、PTSD、神経症不安等の既往歴がある。言わば、拒食症がこれ等症状の二次的病気になっている。

ろくに食事も与えられなかった
ある拒食症の患者は、里子に引き取られ、ろくに食事も与えなかった経験をしている。以来、彼女は食べることに罪を感じるようになった。
コネチカットのシルバーヒル病院のエリン・クレイフィールドは、心の苦しみを解決させる手段として拒食症を発症しているケースがあると言う。鬱、不安を食事を制限することにより打ち勝とうとする分けである。

ナタリヤの拒食症は、兄の悲劇的死により発症していることが病院で明らかになったが、拒食症の苦しみは続き、体重が40sを超えることはなかった。「如何に少なく食べるかしか考えられず、拒食症は私の生活を破壊した。拒食症サイトとタンブラーのページが、事態を悪化させたのは間違いない」と彼女は言う。

今、ソーシアルメディアの時代に入り、拒食症の患者が増加している。2010年には、フェースブックやマイスペースを人は利用していたが、今やブログや掲示板、インスタグラムに広がり、表現はより露骨になり、拒食症を煽るようになった。病的決心、病的耽溺が拒食症の特徴であるが、それが24時間一年中、数百のサイトで繰り広げられている。

カルガリー大学心理学教授のクリスティン・ランソンは「サイトが有害なのは言うまでもない。サイトは拒食症を強化させ、回復を困難にさせる」と言う。彼は2010年、拒食症サイトについての報告書を書いている。
南フロリダ大学のリー・ボーペル修士学生も、シンスピレーションに載る写真を分析して、同様の意見を言う。「これ等サイトは、症状を悪化し固定化する」と彼女は言う。
2010年、ヨーロッパ摂食障害レビューに発表された研究では、健康な女子大学生が拒食症サイトを1時間半読むと、次の週にはカロリー摂取が2,500カロリー減ると報告している。
「拒食症傾向のある女性が読んだら、どれほど変化があるか恐ろしい」とインディアナ大学心理学のデイビッド・ラポーテは言う。

しかし、拒食症の患者の反応は全く異なる。カリフォルニアの26歳の女性でハナーと名乗る人は「拒食症サイトは、今までで最も私の心の支えになりました」と言う。もう一人の若い女性は「治す意欲のある人なら、サイトは勇気を与えます。又行くかと聞かれたら、もちろん行きます。我々には、とても心地よい場所だからです」と言う。

拒食症サイトが蔓延するなか、拒食症が増加している証拠がある。1999年から2009年の間に、アメリカでは拒食症で入院する患者が24%増えている。2010年から2013年の間に、イギリスでは倍になっている。次々と現れるサイト、ソーシアルメディアを考えると、重大なメッセージが読み取れる。

「患者はサイトに行き、自分の症状に自信を持ち、正当化する。これは危険な兆行だ」とガーダは言う。
クレイフィールドは次のように、拒食症の他の心の病との際立つ違いを述べる。「鬱病の人、境界領域の人は、症状と互恵的関係を結ばない。抒情的にならず、空想もしないから、彼等のサイトは有害ではない。それに比べて拒食症サイトは言語道断です」。



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