注意欠陥多動性障害と脳の変化

2006年7月19日

注意欠陥多動性障害(attention deficit hyperactivity disorder=ADHD)の症状の強さは、脳の構造状の問題と関連していると研究で分かった。例えば、児童でも比較的症状が軽い場合、脳の前部にある記憶中枢である海馬が肥大しているのが発見された。研究者によればこの肥大は児童の脳がADHDの過剰の衝動や動きを抑制しようとして、補完的に反応したと説明する。

また、ADHDの児童では感情の中枢である扁桃体が小さいのを発見した。扁桃体の縮小はADHDとの関連で重要である。同時に扁桃体と前頭前野皮質の連結も弱いのを観察している。連結が弱ければADHD児童が衝動を押さえる事が難しいと考えられる。

カースチン・プレッセン氏(コロンビア大学)とブラッドレイ・ピーターソン氏(ペンシルバニア州立大学)はMRIを使って51人のADHD児童及び青少年と63人の健康な児童及び青少年の脳をスキャンした。この報告はArchives of General Psychiatryに2006年7月3日に発表された。

一方、別の研究では注意をコントロールする脳の皮質がADHD患者と、ADHDが改善していない人で薄く、これがADHDの原因では無いかと推測している。ADHDが改善した10代の若者では右側の皮質が厚くなっており、この皮質の厚さとADHDの改善度合いが関係していると、小児精神科のフィリップ・ショー氏とジュディス・ラプポート氏は言う。

学齢期の子供の内、3〜5%がADHDで、彼等は何時も衝動的に行動し注意が散漫である。ADHDは脳の回路の異常から起きていると考えられているが、その児童の内の3分の1が10代後期になると症状が改善される。今までの研究で、ADHDの患者では脳の多くの部分が普通の脳に比べて小さいのが分かっていたが、この小ささが症状とどう関係があるのかが分からなかった。

原因を調べる為に、平均年齢9歳位の児童でADHDを持つ163人と、健康な166人の児童の脳をスキャンした。更に両グループの約60%にあたる人達の脳を平均5.7年後に再度スキャンした。

その結果、ADHDのグループでは皮質の内、特に前部がより薄かった。前部皮質は注意と動作に関係している。6年後の再検査の時に症状が改善していないグループではその薄さがより顕著であった。大幅に症状が改善した児童では、注意に関係がある右頭頂皮質(right parietal cortex)が厚くなり、健康な児童と殆ど変わらなくなっていた。

「神経細胞の粘り強い結合力がADHD児童の皮質を正常化し、複雑な脳の回路を持続的に形成させて症状の改善に結びつけたのでしょう」とショー氏は言う。

MRIで新発見が相次ぐが、それでもMRIは研究用の装置であり、診断や予後の判断に使えないとショー氏は言う。



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