アファンタジア

2022年3月8日


目をつぶって何かをイメージしたらどんな像が描けるであろうか。私の場合は、同調していないテレビの画面を見ているような状態だ。夢も考えが出てくるだけで情景はない。この心の中でイメージを視覚化できない状態をアファンタジアと呼ぶ。

彼らでは記憶は全てコンセプトとして保存されていて視覚では保存されていない。即ち、像を映し出す幕はあるが幕には像が映らない。人口の4%がアファンタジアで、彼らの多くが自分はアファンタジアであると気付いていない。

私が自分の症状に気が付いたのは21歳の時で、ある喫茶店で友人がアファンタジアの症例を話し、世の中にはおかしな症状があるものだと笑っていた。その時、ひょっとしたら自分もそうじゃあないかと思った。実は私は白昼夢とか羊を数えるとかは、隠喩ではないかと考えていた。

この症状を両親に話したところ、母親も同じであると言う。アファンタジアとは遺伝が関係していて、もし先天性のアファンタジアであるなら一親等の家族がアファンタジアになる確率は21%になる。最初はこれはハンディーキャップになると考えたが、時間が経つにつれてむしろ有利ではないかと思った。そこで、自分が他の人とどう違うかに興味が出て来た。

アファンタジアの概念はアリストテレスに始まる。彼は6つの視覚的想像を空想(ファンタジア)と呼んだ。アファンタジアとは、空想する情景が存在しないという意味だ。10%から15%の人たちはその逆で、むしろギラギラした映像を心の中に結びハイパー・ファンタジアと呼ばれる。アファンタジアの存在が認められたのは紀元前340年で、学名が付けられたのはずっと後の2015年、イギリス・エクセター大学のアダム・ジーマンになる。

脳の情景を想像する研究は20世紀の後半までタブー視されていた。行動主義心理学の影響で、行動を観察する時に内省をしてはならないとされていたからである。現在は研究に支障ないが未だ良くわかってないとオーストラリア、ニューサウスウェールズ大学のジョー・ピアソンは言う。

「アファンタジアの人は、像はそこにあるが出てこないと言う。ものがどう見えるか彼らの脳の中に記憶されているが、その記憶を像として描く事が出来ないのだろう」とジーマンは言う。
アファンタジアは像を心の中に描けないとされるが、実際には他の感覚にも問題が起きている。即ち、音、動き、匂い、味、触覚とかで、私など好きな食事の味、人を抱きかかえた時の感覚の再現が出来ない。

人によっては全感覚で起きている場合もあり、これをジーマンはグローバル・アファンタジアと呼ぶ。2020年の報告によると、26%の人が全感覚の表現が出来なかった。このようにアファンタジアとは人により違う。しかしアファンタジアの中で63%の人は夢では像を結んでいる。「夢で像を見ると言う事は無意識では像を描けるという事だ」とジーマンは言う。

アファンタジアの人は知能指数が高い傾向にある。普通、110なのに対して彼らは115と少し高い。そして像に描けないからか、ホラームービーにあまり反応しない。人生に於いて不利でもないし、創造性に欠けるわけでもないとジーマンは言う。

「アファンタジアでは感覚の敏感さに欠ける。また、自分の生い立ちの記述が難しい事、人の顔の認識にも困難を感じる」とイギリス・サセックス大学のカーラ・ダンスは言う。

アファンタジアの人は無意識に像を補完しているから、自分がアファンタジアであるの認識に欠ける。
「何かを想像する時、普通誰も同じものを想像するが、アファンタジアでは違ったやり方をしているのだろう。アファンタジアでは空間認識が優れているが、その空間に物体がない」とピアソンは言う。

ある時、自分と同僚が物を考える時に脳がどのように作動するか図を書いて説明しようとした。しかし私だけが出来ない。他の人が完成するのを待つだけで、ばつの悪い思いをした。でもやり方は色々あるわけで、画像が描けなくても言葉で説明できる。

「アファンタジアとはもう一つの情報処理法で、どの方法が一番良いかは一概に言えない。像が難しかったら音声で補充する」とダンスは言う。



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