犯罪を起こすのは幼児虐待か、あるいは遺伝子か。 2002年8月2日 |
何故子供の頃虐待された経験があるのに、あるものは粗暴犯罪に走り、他のものはそうならないのか遺伝子の面から研究した報告である。 MAOA(モノアミンオキシダーゼA)と呼ばれる遺伝子がそれで、その活動が弱いタイプの遺伝子を持つ男子は子供時代に虐待を受けると普通のレベルの活動をするMAOAをもつ男子より反社会的行動をする傾向が高い事が判明した。 MAOA活性と反社会性は未だ研究段階であるが、反社会的行為を抑止する武器になり得ると研究者は語っている。 「活発型MAOA遺伝子を持つ人は、たとえ児童虐待を受けても反社会的行動を起こしにくいと分かり、大変面白い結果です。要するのこのタイプの人は遺伝子により犯罪に走ら無いように守られているわけです。我々の遺伝子には人をトロウマ耐性にする何かがあるのかも知れない」とウィスコンシン大学の心理学者でありロンドン・キングスカレッジの教授でもあるテリー・マフィット氏は言う。 マフィット氏とその研究陣はこの研究結果を今週のサイエンス誌に発表している。 MAOA遺伝子とは神経伝達物質セロトニンを分解する酵素であるモノアミン酸化酵素Aをコントロールする遺伝子である。セロトニンは感情と行動を支配する神経伝達物質であり攻撃性、衝動性にも関係がある。MAOAはセロトニンのみならず、他の重要な神経伝達物質であるドーパミン、ノルエピネフィリンもコントロールする。 今までの研究では、MAOAが完全に消失している場合、人間及でもネズミでも攻撃的になるのが確かめられている。しかし一般社会でのMAOA効果がどれほどであるかは全く分かっていなかった。 今度の研究では子供時代のストレスとMAOA遺伝子変異体との関係を調べた。マフィット研究チームはニュージーランド男性の442人を26年間に渡って追跡調査をした。その人達の3分の2は普通の遺伝子を持ち、残りの3分の1の人達は遺伝子の活動が弱い。 グループの内8%が明らかに激しい虐待を受けており、28%が恐らく母親からの無視や肉体的あるいは性的虐待を受けている。 子供時代に虐待を受けて、しかもMAOA遺伝子の活動が弱い人達はグループ内で12%であるにも関わらず、暴力犯罪を起こしたケースの44%を占めていた。そして弱いMAOA遺伝子を持ち虐待を受けた過去を持つ男性の85%が反社会的行動を示していた。しかし遺伝子の影響はタバコや高血圧が心臓病に影響するのと同じ位であると研究チームは言っている。 専門家はこの研究が遺伝子と環境の複雑な関係を示していると言う。 「今までは人が犯罪を冒した時に、それが遺伝子の性であるか環境の性であるかはっきりしようとしましたが、どちらか1つでなく両者が関係しあって起きています。しかも遺伝子は1つでなく多くの遺伝子が関連しているでしょう」 とMAOA遺伝子を研究したミシガン大学の行動遺伝子学のスコット・ストルテンバーグ氏は言う。 脳科学ニュース・インデックスへ |