2019年4月16日 |
最近の研究によると、空気の汚染が我々の行動にまで影響しているらしい。 もしそうなら、将来は警察も大気汚染の状況に合わせて警官の配置を考えるという、SF映画ばりの事態が起こり得る。 現在は多くの人が都市に住み、汚染した空気を吸い込んでいる。世界保健機構は、世界では10人中9人までが汚染した空気を吸っていて、年間7百万人の人が大気汚染が原因で死んでいると発表している。 2011年、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスのセフィ・ロス氏は、大気汚染が及ぼす広範な影響を調べた。 先ず、大気汚染が果たして認識力に影響を与えるかどうか調べるために、大気汚染と学生のテストの成績の関連を調査した。 「驚いたことに、汚染が酷い日の成績は悪く、空気がきれいな日の成績は概して良かったのです。 汚染の酷かった日の前後では成績は普通に戻っている」とロスは言う。 大気汚染は学生の将来にも影響を与える。そのため、学生たちのその後8年から10年を追って調査した。すると、汚染空気の中で学生時代を過ごした人たちは、評価の低い大学に入り、卒業後の収入も低かった。 「このように大気汚染は人生に大きな影響を与えるのです」とロスは言う。 ロスはまた、2018年に600のロンドンの地方議会選挙区を選んで犯罪データーを分析した。その結果は、貧困地区、高所得地区に関わらず、大気汚染が酷い日に軽犯罪が多発していた。以上から、専門家は大気汚染と犯罪の多発は因果関係があると見ている。 汚染拡散と犯罪率の移動 大気汚染は風に運ばれるから、状態は刻々変化し、汚染の影響はあらゆる地区に及ぶ。 「毎日、風の方向の変化と犯罪数の動向を調べると、大気汚染と犯罪数の上昇が関係していた。そして、大気汚染が必ずしも高くなくても犯罪件数を引き上げていた。政府が薦める汚染濃度を大幅に下回る水準でも、犯罪を押し上げている」とロスは言う。 即ち、アメリカ環境保護局が言う所の大気汚染が少ない状態でも犯罪抑止には不十分になる。重大犯罪については、ロスが調べた限りでははっきりしなかった。 マサチューセッツ工科大学のジャクソン・ルーは、全米9000の都市を9年間に渡って、その大気汚染と犯罪との関係を調査している。その結果、大気汚染は6つの犯罪カテゴリー即ち、殺人、レープ、強盗、自動車泥棒、窃盗、暴行で上昇させていた。そして汚染の最も酷い都市は犯罪も最も高かった。 682名の思春期の若者の不良行為を調べると、カンニング、無断欠席、盗み、破壊行為、薬物摂取が多かった。 南カリフォルニア大学のダイアナ・ユナンは、PM2.5粒子を含む空気を12年間吸った時の影響を調べている。PM2.5とは人間の髪の毛の30分の1ほどの微小粒子で近年大気汚染で問題になっている物質である。その結果、PM2.5も不良行為を引き上げていた。若い時の不良行為は、学校の成績の不振につながり、就職を困難にさせ薬物依存の温床にもなる。 大気汚染が心をキレやすくする 何故大気汚染がモラルに影響するのだろうかの疑問に対しては、「空気が汚れていると感じるだけで気持ちが滅入るでしょう」とルーは言う。 研究では、アメリカ人とインド人の被験者に空気の汚れた都市の写真を見せ、そこに住むことをイメージするよう命じた。すると被験者は不安になり、内向きになり、怒りやすくなり、無責任な行動をとり始めた。 「不安になると人は自分を守ろうとするし、心がキレやすくなる。空気の汚染は人の心を不安定にさせます」とルーは言う。 脳そのものの変化 調査で分かったのは、汚染した場所に住んでいる若者は、”ずる“して報酬を得ようとした事だ。大気汚染は不安を起こしやすくするばかりでなく、脳そのものにも変化させるのかも知れない。汚染した空気を吸うと、少ない酸素と共に汚染粒子を吸う事になるから、脳に炎症を起こすだろうし、脳の構造に変化を与えるかも知れない。 「大気汚染は前頭葉に影響を及ぼしているのだろう。前頭葉は高次の判断をするところだから、その機能が衰えれば、当然抑制が効かなくなり不良行動の原因に成る」とユナンは言う。 2019年の3月に発表された報告によると、 大気汚染環境で過ごした10代の若者の中には、幻聴や妄想の精神症状を示していた人たちがいたと言う。 ロンドンキングスカレッジのジョアンナ・ニューベリーは、 「大気汚染が体に良くないのだから、当然脳にも良くない」と言う。 「大気汚染が酷い日にはランニングはすべきではないし、部屋の中にいるべきでしょう」とユナンも言う。 カリフォルニア州では空気の改善の結果、犯罪も減っている。 ロンドンでは、2019年の4月からウルトラ空気浄化ゾーンが設けられ、通過車から1700円の税金を徴収している。ロンドンでは”グリーンバス”が沢山導入されている。 「世界各国、大気汚染の改善努力をしているが未だ十分ではない。政府ばかりでなく、我々一人一人も努力をする必要がある」とロスは言う。 脳科学ニュース・インデックスへ |