神経症遺伝子の発見

2002年7月19日

税務調査となると誰でも手の平に冷や汗を書くものだが、普通以上に緊張したり不安になる人はどうも原因は親にありそうである。短い変異体遺伝子を持つ人は普通より強い不安反応を示すと発表された。この遺伝子は感情をコントロールする物質を作成する。

SLC6A4と呼ばれる遺伝子がそれであるが、ある種のタンパク質を作る。このタンパク質は脳の神経細胞がセロトニンをシナプス中に放出した後セロトニンを搬送する役割をする。この遺伝子が属する部分はプロモーターと呼ばれるがどれだけ搬送体であるタンパク質を作るかをコントロールしている。

アメリカ人口の3分の1は長いタイプのSLC6A4プロモーター(アリーリス)を持っている。結果としてこの3分の1の人達は搬送体を多く作りセロトニンがシナプス空間に存在する時間が短い。残りの3分の2の人は1種類か2種類の短いタイプの遺伝子を持ちセロトニンは比較的長期間シナプス中に存在できる。

セロトニンは鬱病と神経症に関わる重要な化学物質であり1種類か2種類の短いタイプのアリーリスを持つ人はテストで多少不安や恐怖を感じやすい性向を示している。その効果は控えめであり数値で3−4%と言う所である。これが具体的にどのような行動に現れるかははっきりしない。しかし双子を使った調査では各種不安のレベルは40−60%遺伝子に規定されていると報告されている。

今日発売のサイエンス誌では短いタイプのアリーリスが果たして扁桃体の活動に影響を及ぼすかどうかについて調べている。このアーモンド型をした小さな器官は臓器の指揮者と言われ恐怖を察知して心拍を高め呼吸を高める。

国立アルコール依存症研究所の神経遺伝子学者であるデイビッド・ゴールドマン氏とその研究チームは28人の男女に顔の認知テストと記憶テストを実施した。28人の内の半分は1種類か2種類の短いタイプのアリーリスを持ち、他の半分は2種類の長いタイプのアリーリスを持っている。

2つのグループで扁桃体が違った動きを示すかどうか興味のある所であったが、MRIスキャンで調べた結果は反応は同じであった。しかし怒った顔あるいは恐怖した顔を見せた時に短い遺伝子を持つグループの扁桃体は過剰な反応を示した。それに対して長い遺伝子を持つグループではその反応が起きなかった。

「2つのグループ共に試験結果は良好でしたが、少し不安の感じ方が違うようです。短い遺伝子を持つグループが不安を敏感に感じるようです。一般不安に関する性格テストでは両グループに違いが出なかったのですが、このサイズのテストでは発見は難しいでしょう」とゴールドマン氏は言う。

このSLC6A4の発見は不安の研究分野では矛盾を提出する事になった。例えば今流行りのSSRIであるプロザックとかゾロフトはセロトニンの再吸収を妨害する薬であり、言わば短いタイプのアリーリスと同じ働きをする。それなら何故短い遺伝子を持つ人が不安になるのか。

「ここが難しい所で我々は未だ分からない所ばかりです。今後遺伝子が欠損しているネズミを使って更に研究します」とゴールドマン氏は続ける。



脳科学ニュース・インデックスへ