決定は己の意思か


2008年11月10日
人間の自由意志を懐疑的にみるマーク・トウェインが、彼のエッセイ「人間とは何か」の中で、老人と呼ばれる話し手が「判断をしたのは貴方ではなく、貴方の心の機能が自動的に瞬間的に判断をしているのです」と言っている。

このトウェインの考え方が今週発表された研究で支持された。ワシントン大学医学部とイタリアのチエティ大学の共同で行われた研究では、我々の簡単な意思の決定は、刺激を受けて動きを命令する脳であり、脳の最も高等な部分として知られる前頭葉は関与していないと発表した。

今まで霊長類を使った研究でも同じ結論を得ていたが、多くの専門家は人間では意思の決定に際して前頭葉がより独立して関係しているのではないかと予想していたがそうではなかった。

「我々が意思決定をする時にどの脳部分が関わっているかを調べると、アルツハイマー病とか脳の外傷、脳溢血等の治療に役立つ。我々は常々自分の意思で物事を決定していると思っていたが実際はそうでない。簡単な意思決定は、情報を入力された脳部分が自動的に直接している可能性が高い」と論文の著者であるマウリジオ・コルベッタ氏は言う。

実験を指導したトソニ氏は、被験者に顔と建物の写真を見せ、ある一定の動作をするように指示した。写真を見せる時にそれを見え難くする妨害信号も同時に加えられ、写真が顔と確認できる時は目を一定の方向に向けて、建物と判断した時は手を同じ方向に向けるように指示した。

「この実験では意思を自動的に発動出来ない。注意を集中する必要があり、画像を確認してから動作しなければならない」とコルベッタ氏は言う。

被験者が動作をする時に脳のfMRIの写真を取った。感覚器からの信号入力と、目あるいは手を動かす意思決定との違いを際立たせる為に、被験者は写真を見てから目あるいは手を動かすまでに10秒待つように指示された。

研究では、目や手を動かす動作を決定する脳である頭頂葉に注目した。この頭頂葉の領域が顔や家を見た時、目や手を動かす決定をした時に活発に動作した。ノイズが少なくて画像がはっきり認定出来る時も活発に動いていたし、はっきり判定できない時もやはり動作していた。

「実験から、頭頂葉が感覚情報の入力処理、意思決定、動作の指令を総てやっていたのが分かった。それに比べて、意思決定に関わると考えられていた前頭葉は全然反応ていなかった」とトソニ氏は言う。

被験者は脳スキャンを実施する前に作業の訓練しているが、その時には前頭葉は活動していたと思われる。しかし、一度被験者が作業を学習すると前頭葉はその業務を運動前野に委ね、そこで意思決定がされたのだろう。前頭葉は静かになったのはそのためである。

「かなり気まぐれで複雑な意思決定も、感覚情報がどれだけ脳に刺激を与えるかで決まるようだ」と彼は言う。

トソニ氏とコルベッタ氏の次の計画は、もう少し込み入った意思決定もやはり感覚運動メカニズムだけで決定されるのか、また、もし報酬が約束された時には前頭葉がどう反応するかを調べようとしている。



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