自閉症とSSRIの関連

2011年7月5日

最新の研究発表によると、妊娠時に抗鬱剤を飲んでいる人では、飲んでいなかった人に比べて生まれた子供の自閉症の発症率が高いのが分かった。

1,700人の子供を対象にした調査(その中に300人弱の自閉症スペクトラム障害の子供を含む)では、母親が子供を生む前の年に抗鬱剤を飲んでいた場合、抗鬱剤を飲んでいない女性に比べて2倍高い自閉症スペクトラム障害発症率を示していた。特に妊娠最初の3ヶ月間に飲んでいた人では4倍高い値であった。

この研究ではSSRIと呼ばれる抗鬱剤を飲んだ人を対象に行われた。SSRIとはプロザック、パクシル、ゾロフト等の抗鬱剤で、脳細胞中のセロトニンレベルを上げて鬱状態を解消する作用を持つ。

セロトニンが自閉症と関係があるのではと以前から言われていたため、研究では特にSSRIに注目して研究をした。ある研究報告によると、自閉症の子供の血中には通常より高いレベルのセロトニンがあると言い、自閉症の子供を持つ家族も、セロトニンのレベルがそうでない家族に比べて少し高いと言う。

問題はSSRIが自閉症を発症させているのか、あるいは心の病が自閉症の原因になっているかである。自閉症の子供を持つ家族には心の病を持つ人が多いと言う報告や、自閉症の子供の母親が鬱病、不安症、その他の感情障害を持つ率が高いという報告もある。

そこで、カイザー自閉症研究所のリサ・クローエン等は、SSRIが自閉症に関係しているのか、あるいは心の病が発症率を高くしているのかを調査をした。カイザー自閉症研究所のデーターベースにある320万人の中から、1995年から1999年に生まれた子供で、自閉症になった子298人を抽出した。その298人を同じ頃に同じ病院で生まれて健康である1,507人の子供と比較した。

その子供達の出産前の1年に女性がSSRIの処方を受けたかどうかを調べたところ、自閉症の子供を生んだ母親では20人が抗鬱剤を飲んでいたのに対して、自閉症を発症しなかった人でSSRIを飲んでいた人は50人であった。

次に自閉症スペクトラム障害の子供を生んだ母親の内、心の病を経験している率を調べた所12%であるのに対して、健康な子供の母親では9%であった。この結果からSSRIと自閉症の関連がはっきり浮き出てきた。

「抗鬱剤を飲む人は何らかの心の病気を持っていて、我々もそれが自閉症発症に関連があるのではと考えているが、それでも心の病よりそれを治療する薬物が自閉症を起こしている可能性を今回の調査が示していた。証拠に、データーから抗鬱剤の影響を差し引くと心の病と自閉症の関連が消えていた」とクローエン氏は言う。

もしこれが本当だとすると、これから母親になる人達と医師には難しい問題が生じる。今まで、大体7%から13%の妊娠女性が抗鬱治療を受けているのが分かっている。鬱状態をそのまま放置すれば好ましくない出産が予想され、赤子と母親の精神的結びつきにも影響を及ぼすであろう。酷い場合は産後の鬱状態と言う危険な状態を起こす。

「我々は今回の研究から妊娠女性が抗鬱剤をやめるべきとは言わない」とクローエンは言う。

所で、アメリカ食品医薬品局は多くの抗鬱剤をカテゴリーCに入れている。
(カテゴリーCとは妊娠期間に飲む場合、安全とも安全でないとも表現しない。AとBは安全であり、D及びXは好ましくない、あるいは全面的に禁止を意味している)

カイザー研究所で地域の心の健康医療を担当しているメーソン・ターナー氏もこれに同意する。「以前から女性は妊娠期間に抗鬱剤を飲むことに躊躇していた。鬱を解決する他の療法はどうか、ストレスレベルを下げる方法なないかと考えて、薬の選択は最後にするべきだと思う」と彼は言う。

自閉症は遺伝子と環境両面から絡んでいる複雑な病気である。「鬱状態を起こす遺伝子が子供の自閉症発症に関係することもあり得るが、鬱病あるいはその治療薬だけが原因と言うのは早すぎる」とクローエンは言う。

自閉症の発症原因を探るには更なる研究が必要になる。「この研究が出てもSSRIの処方を今すぐやめようとは思わない。人により条件が違うのであるから、バランスある対応が必要である」とターナーは言う

この研究は”the Archives of General Psychiatry”のインターネット版で発表されました。



脳科学ニュース・インデックスへ