父より母から受け継いだ遺伝子変異が自閉症発生のリスクを高めるとの報告が最近あった。遺伝子変異を受け継いだから直ぐ自閉症を発症すると言う意味ではないが、遺伝子変異を持たない子供より発症の確立が高い。 CNTNAP2と呼ばれる遺伝子は、脳の神経細胞同士が交信するときに必要なたんぱく質を作成する。同時に神経細胞の発達にも関与している。以前からこの遺伝子と自閉症の関連が疑われていたが、今回の発表でこの遺伝子の構造のある変異が病気に関連しているのが分かった。 報告は1月10日のAmerican Journal of Human Genetics誌のインターネット版にチャクラバルチ、ダン・アーキング等ジョーンズホプキンス大学の研究チームとエドウィン・クック等イリノイ大学の研究チームにより報告された。 「自閉症は遺伝性の濃い病気です。関連遺伝子を発見する事は病理を解明する上で最も重要です。自閉症は患者の生活を大変困難にさせ、現在の所、治療法はありません」とトーマス・インセルは言う。 自閉症は脳の発達障害であり、視線、会話などの基本的社交技術を阻害する。同時に繰り返し行為、強迫行為も見られる。これらの症状は深刻な障害をもたらし、多くは生涯に及ぶ。治療により症状の一部は軽減するが、社会性を阻害する基本問題を治療する方法はまだない。 まだその発症原因は明らかではないが、双子の研究から遺伝子が重要な役割をしているのが分かっている。環境要因により発生した遺伝子の変異体が、発達段階の脳に影響を及ぼし変調を起こすと考えられる。今まではどの遺伝子が原因かは確かでなかったが、CNTNAP2という遺伝子がその候補の一つになっていた。 CNTNAP2遺伝子が関連していると分かったのは、分析アプローチが違う2つの研究が同じ指摘をしたからだ。今回の2つの実験は自閉症研究では今までで最大規模の実験となった。 最初の実験では145人の自閉症の子供とその家族、また2人以上の自閉症児を持つ家族を対象として行われた。ゲノム全体関連分析と呼ばれる手法を使って調べ、染色体の 7q35と呼ばれる部位が病気に関連していると報告した。 染色体を更に深く調べると、CNTNAP2と呼ばれる遺伝子が自閉症を起こすであろう変異体を持つのを突き止めた。この遺伝子コードの一部はアデニン塩基かチミン塩基をコードしているが、自閉症児の遺伝子はチミン塩基をコードする変異体を持っていた。 結果を検証するために、別のグループを募り調べた。このグループには 1,295人の自閉症児とその親が含まれる。やはりここでも自閉症児ではCNTNAP2遺伝子中にチミン変異体が高率に出た。普通はこれは偶然と考えられる。 2つの実験から自閉症児はチミン変異体を父よりも母親からもらう確立が20%高いと結論した。 「この変異体はごく普通の変異体で誰でも持っている。しかし我々が発見したのは母親からそれを受け継ぐと自閉症になりやすいと言う事実です。注目すべき結果ですが、更なる検証が必要でしょう」とチャクラバルチ氏は言う。 CNTNAP2遺伝子の脳の発達段階での役割は細胞の分化に関わっているとされている。分化とは前駆細胞が各々違った細胞に変化していく過程を言う。CNTNAP2遺伝子はある種のたんぱく質を作る遺伝コードを所持し、このコードはニューレキシン(neurexin)と呼ばれる遺伝子グループの一部である。このコードは 前駆細胞の軸索のミエリン化を促すと考えられている。軸索を通して神経細胞は電気的に他の神経細胞と交信するが、ミエリン化により更に高速で情報を交換できる。 「CNTNAP2遺伝子は自閉症を起こすであろう重要な遺伝子です。この遺伝子は細胞間の交信を支えるたんぱく質をコードしていて、脳細胞の発達段階で重要な役割をしている。この働きの一部が変化した遺伝子変異体が脳に重大な影響をもたらすという事です」とチャクラバルチ氏は言う。 脳科学ニュース・インデックスへ |