躁鬱病の遺伝子座

2021年9月29日
アメリカ国立精神衛生研究所
研究ハイライトから


「Nature Genetics誌」に発表された、精神病遺伝子研究共同体の躁鬱病部門による論文によると、躁鬱病発症を疑われる遺伝子個所が今までより倍に増えた。躁鬱病遺伝子を求める研究としてはこれまで最大で、アメリカ国立精神衛生研究所の研究員を含む800人からの研究員が参加している。

躁鬱病とは躁と鬱を繰り返す精神病で、日常の生活を極端に困難にする病気である。世界では5000万人が罹患していて、最も注目されている精神病の一つである。
従来から、躁鬱病の発症には遺伝子が疑われていたが、患者に共通する遺伝子変異の特定が待たれていた。

研究では、ヨーロッパ、北アメリカ、オーストラリアから57グループの人たちの遺伝子情報を集めて分析した。検査の対象となった人は、病院で治療を受けている人、健康チェックで躁鬱病に分類された人、データから躁鬱病と判断される人の41,917人で、その他にコントロールグループとして371,549人の健康な人の遺伝子も比較している。

研究では遺伝子関連研究という手段が取られ、全ゲノムから64か所の関連遺伝子座を発見した。
以前から31か所の関連遺伝子座は分かっていたから、33か所増えたことになる。新しく発見された遺伝子座には、主要組織適合遺伝子複合体に結び付いているものがあり、そこから躁鬱病が免疫にも関連しているのが分かる。また、統合失調症、鬱病、注意欠如・多動症の遺伝子座と似ていることも分かった。更に躁鬱病が、飲酒癖、喫煙癖、睡眠スタイル(日中の眠気、不眠症、睡眠時間)とも関連していたのが面白い。

躁鬱病1タイプと躁鬱病2タイプでは、両者には完全一致はなかったが遺伝子的重なりを認めた。躁鬱病1タイプは躁と鬱を繰り返すタイプで、躁鬱病2タイプは鬱と軽い躁を繰り返すタイプである。
躁鬱病1タイプはより統合失調症との結びつきが強いのに対して、躁鬱病2タイプはより鬱病との関連性があった。

躁鬱病遺伝子座64か所に161の遺伝子を発見した。関連遺伝子には神経細胞同士の交信の役割をしているもの、躁鬱病治療薬や精神安定剤、抗てんかん剤の標的になっているもの、降圧剤、麻酔薬の標的になっているものがあった。

ファインマッピングと言う手法で分析して、15個の遺伝子が特定された。

今回の発表で、既知の躁鬱病遺伝子座を再確認しているが、更に関連遺伝子座を倍に増やしている。
今後、被験者の数を増やして調査をすれば関連遺伝子座が増えるから、躁鬱病研究の変曲点になるという人もいる。

今回の研究により、治療法開発への一歩が期待される。



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