躁鬱病の躁状態の原因 2012年9月1日 |
躁鬱病の患者では感情が激しく上下し、躁状態と鬱状態を繰り返す。ボン大学とマンハイム精神病研究所は、躁鬱病患者と動物のデーターを研究して、NCAN遺伝子が躁鬱病の躁の状態に関連しているのをつきとめた。 この結果は”The American Journal of Psychiatry”誌の最近号に発表された。 人が躁鬱病を発症すると、患者の感情はローラーコースターに乗っているように激しく変化する。鬱期に入ると、しばしば自殺念慮を伴う無気力状態になり、躁状態では落ち着きがなくなり、多幸感に浸り、崇高な妄想にふけるようになる。今まではこの病気の原因には遺伝子と心理社会的両面が考えられていた。 NCAN遺伝子が躁の原因 「NCAN遺伝子が躁鬱病の主な原因ではないかと言われて来ましたが、まだはっきりしなかった」とボン大学人間遺伝学のマルカス教授は言う。 今回の研究では、1218人の躁鬱病の患者の遺伝子と躁と鬱の関係を調べて、NCAN遺伝子が躁状態に関連しているのが分かった。 研究では患者の臨床記録を調べながら、NCAN遺伝子が患者のどちらのモードに関連しているか調べた。「この研究から、NCAN遺伝子が患者の鬱症状ではなく、躁状態に関与しているのが分かった」とマンハイム精神病研究所のマルセラ教授は言う。 鬱のねずみは砂糖液をむさぼり飲んだ ボン大学の分子精神医学研究所のアンドレアス・ジマー氏の率いる研究チームは、NCAN遺伝子が引き起こす分子的側面を解明することにした。研究でNCAN遺伝子を破壊したねずみを使って実験したところ、ねずみは鬱状態にはならず、躁状態だけを示した。普通のねずみに比べて活発であり、躊躇せず砂糖液を飲むような行為が観察された。 リチウムがねずみの躁を解消した 「躁状態になったねずみにリチウムを処方したところ、人間と同じようにねずみの躁状態も解消した」とジマー氏は言う。リチウムは躁鬱病患者に処方される薬で、処方薬の効果まで人間とねずみが一致した。以前からNCAN遺伝子を抑制すると、ニュロカン蛋白の生産が阻害されるため、脳に発達障害が起きることが分かっていた。「この脳の発達障害が起きたため、動物あるいは人間が躁状態になったのです」とジマー教授は言う。 新しい治療法の可能性 今後、躁鬱病を分子的側面からさらに研究して、新しい治療法発見が期待される。 「実験から、ねずみと人間の躁鬱病の患者が、あまりに近似しているのに驚いている」とネーデン教授は言う。 「このようにはっきり出た実験結果は今まであまりない。新しい躁状態治療薬の開発には欠かせない貴重なデーターだ」とリーチェル教授も言う。 脳科学ニュース・インデックスへ |