ぼやけた境目

2015年1月29日

全ゲノム分析と言う最新の手法を使った研究報告が最近あった。それによると、心の病気には、共通のリスク遺伝子が関与していて、同じ生物学的経路で発症しているのが分かった。統合失調症、躁鬱病、鬱病ではリスク遺伝子が遺伝子の表現、免疫システム、神経伝達システムに影響を及ぼしていた。

「今までは別々に分けられていた精神病が、実はリスク遺伝子を共有し、互いの境目が分かりづらくなって来た。もう少し絞り込めば、これらの病気に共通するメカニズムが分かるに違いない」とRDoCユニット責任者のブルース・カスバート氏は言う。

精神遺伝学協会は、精神病の生物学的経路を求めて全ゲノムを調査し、その最初の報告を、2015年1月19日の”the journal Nature Neuroscience”誌に発表した。精神遺伝学協会は、世界25か国、80研究所に働く500人の研究者から成り立っている。

精神遺伝学協会は、ゲノム経路分析と呼ばれる統計手法で、6万人のゲノム分析をした所、リスク遺伝子がイオン・チャンネルに影響をして病気を発症しているのが分かった。

統合失調症、躁鬱病、鬱病は思春期に症状が現れるが、それも遺伝子経路に問題があり起きていた。その遺伝子経路とは、ヒストン・タンパクのメチル化で、エピジェネティックとも呼ばれている。環境、経験によりヒストン・タンパクのメチル化が起こり、遺伝子の表現が変化する。リスク遺伝子は、脳神経細胞間の連絡や免疫システムにも関与していたが、心理的ストレスが不安障害を発症しやすい事実とも一致する。

躁鬱病では、ヒストンのメチル化が問題で、統合失調症では神経細胞間の連絡障害が問題になっていた。生れる前にこの経路に障害が起きると、脳の発達障害が起きると研究者は指摘する。

この研究結果は、心の病気の治療法発見への一歩前進であると同時に、他の難しい病気のメカニズム発見にもつながるだろう。



脳科学ニュース・インデックスへ