2013年2月19日 |
人類の脳の進化には、多分DNAの文字列の変化より遺伝子スイッチのオン・オフ機能を変化させるファクターがより大きな役割をしているのであろう。この研究から分かったのは、DNAの一部が人間では特異にコントロールされていて、サルではそうでなかった。この違いを調べることにより、人間の脳の発達と人間特有の心の病である自閉症やアルツハイマー病の原因に迫ることになるかも知れない。研究はシナイ山医科大学のシャラム・アクバリアン氏とマサチューセッツ大学の研究者により11月のPLoS Biology誌20号に発表された。 背景 霊長類のゲノムの総塩基は数十億もあるから、何故人間が知性を持つようになったかを調べるのも容易でない。塩基配列だけで人間とチンパンジーの違いを比べると、4千万もの違いがある。違いの多くは進化の過程で生じた遺伝子の偶然の変異で、必ずしも人間の知能の発達を説明するものでもない。 アクバリアン等はDNAの長い糸がたんぱく質に包まれている様子を詳しく調べた。これをクロマチン構造と言うが、クロマチン構造が遺伝子のオン・オフを決定している。 研究の結果 人間の子供と大人から取り出した前頭葉の脳神経細胞と、チンパンジーや他のサルから取り出した前頭葉脳神経細胞を調べてクロマチン構造を比較したところ、数百ヶ所で人間特有のそれを発見した。特に人間に特有なのは、ある種のクロマチン構造が細胞核内で影響しあっていることであった。DNAを一本の延ばした糸と見れば、互いのクロマチン構造が離れ過ぎていて影響することは考えられない。この”染色体の環状構造”が近くにある他の遺伝子に作用して人間の脳の発達に寄与しているのではないかと推測される。 重要さ 最近エピジェネティックスが人類への進化と心の病気を学ぶ上でより重要になってきた。人間のゲノムの限られた領域で、しかも認識に関わっていて、他の霊長類とは違うこの部分が多分人間の脳を発達させたのであろう。このことは脳細胞の中のゲノム3次元構造を学ぶ重要さを物語っている。今”3次元のDNA”が人間の脳を研究する上で注目されている。 脳科学ニュース・インデックスへ |