ADHDは脳の成長の遅れ

2007年11月12日

ADHD(注意欠陥多動性障害)の子供では、そうでない子供に比べて脳の高度の判断をする部分の成長が3年遅れていると研究から分かった。遅れる部分で特に目立つのは前頭前野皮質であり、ここは思考、注意、計画にかかわる脳の中枢である。

脳の発達はADHD、健康にかかわらず脳の後ろから前へと成熟過程をたどるが、脳の各部はそれぞれの時間にそれぞれの厚さのピークを迎える。動画参照

「ADHDの子供の脳の発達は健康な子供に比べて後れるが結果的に正常に成熟するので、成長するにつれて問題は解決する」と研究を指導した精神衛生研究所の小児精神科部門のフィリップ・ショー氏は言う。

今までの脳スキャンでは各脳葉の大きさに注目していたから、脳の発達段階での遅れを発見する事が出来なかった。新しい検出技術の発達により皮質の数千箇所でその厚さの変化が分かるようになった。

「もし脳葉に注目していると変化を測定する科目はわずか4箇所ですが、この研究では4万箇所が見られる。従って変化が起きてる場所をピンポイントで測定できるわけです」とショー氏は言う。

ADHDのグループ223人では、4万箇所の検出箇所の半数で最も皮質が厚くなるのは10歳半と、健康なグループの7歳半に比べて3年も遅れていた。

研究では446人の被験者を、3年の間隔で少なくても2回脳スキャンをして調べた。被験者には学校前の子供と若い大人が含まれる。脳皮質は子供時代に厚さを増し、思春期に入るころから刈り込みと言う現象が起きて薄くなるが、研究はその年頃に焦点を絞っている。思春期に入ると脳は使われていない回路を刈り込んで最善を保とうとする。

ADHD、健康両グループ共に感覚を処理する脳(脳の後部)及び運動をコントロール脳(脳の頂上)は子供時代の早い時期に厚さのピークを迎える。しかし高度の判断の中枢である前頭前野皮質の成熟は遅く、十代の後期にピークを迎える。脳の前部は不適当な活動や考えを抑え注意を集中し、場面場面で物事を思い出し、報酬を考え運動機能を調節する。この機能がADHDの子供には不足している。

ADHDの子供では、特に脳の前部と左右側部で発達のピークが遅れていた。この部分では感覚脳からの情報を処理して高度の判断をする。例えば、最も成熟が遅れる部分に前頭前野皮質の中央部分があるが、ADHDでは健康な子供に比べて5年も遅れていた。

ADHDの子供では、運動を司る皮質が健康な子供より早く成熟する特徴もあった。このミスマッチがあるために、ADHDの子供がそわそわして落ち着きが無い原因になっていると専門家は見ている。

ADHDと対照的なのは自閉症であり、自閉症では脳体積のピークが健康な子供よりかなり早く現れる。

今回の研究でADHDの原因は脳皮質の成熟の遅れと確認した。今後はこの遅れを起こす遺伝子関連の研究やADHDからの回復を早める治療法の研究に移る。

「脳スキャンはまだ診断には使えない。今回、ADHDの脳の発達の遅れが発見されたのは、ADHDを含む膨大な数の子供の脳スキャンが取れたからです。一人だけ見て発見と言うわけには行きません。診断は今も本人、家族、先生から状況聞きながら診断します」とショーは言う。



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