摂食障害(ブリミア)の遺伝との関連性
1998年12月28日
トレイシーは20歳を越えた頃に他の健康な女性が自分の食べ方と違うのに気が付いた。拒食症の為に危険なまでにやせ細り入院して恐ろしげに看護婦の横に座り、助けを借りて皿一杯の食事を一口ずつ食べさせられた。
13年後の今彼女は言う。「私の母親はとても体重を気にする人でした。だからいつも痩せ過ぎで例えば昼食の時などブラックコーヒーだけで済ましました。ある時など友達が母親の誕生日に昼食に誘ったのですが食べたのはドレッシングをかけないサラダだけでコーヒーも飲みませんでした」。トレイシー(仮名)は彼女の半生を拒食症とブリミアで過ごしたのですがこの病気を患うのは彼女の家系で彼女一人だけでないと実感してました。だからこそ彼女の医者が問題が遺伝子にあると告げた時もそれほど驚かなかったのです。
双子の研究
彼女の医者はヴァージニアコモンウェルス大学の摂食障害の権威であるシンシア・ブリク氏であります。氏の研究によると女性のブリミアになる危険性は多く遺伝に由来しているという。2000組みの一卵性及び二卵生双生児を研究した結果女性の摂食障害は83%遺伝に原因していると言う結果を発表している。他の研究でも摂食障害は遺伝性を示してはいたがブリク氏の研究が発表されるまでは果たして家族の人達が同じ遺伝子を共有していたからなのか、或いは共通の病気を引き起こす環境に生活していたからなのかがはっきりしなかった。彼女の論文は「生物精神医学」の最新号に発表される。
それでは一般通念である若い女性は痩せて美しくあれと言う社会的プレッシャーに押されて拒食症になったりブリミアになると言う説はどうなったのか。ブリク氏は「社会に責任が無いとは言いません。遺伝子が銃弾を込め環境が引き金を引くと言ったら良いでしょう」と言う。「一卵性双生児では100%同じ遺伝子を持ちます。それに比べて二卵性双生児では50%しか遺伝子を共有してません。ですからブリミアが一卵性双生児に多く見られたらそれは遺伝と考えて良いわけです」とブリク氏は言う。
親に責任はない
これがブリク氏が発見した事実です。ブリク氏とその研究グループは1897組の双子の女性に面接して30歳の時と35歳の時の2回に渡って詳細に調べた。調査項目は遺伝因子、共通する環境例えば子育て、特別な環境例えば双子の一方が経験して他方がしないもの、社会経済因子等。
これらの影響を詳細に分析した所何か特別な経験から双子の一方が発病したのはたったの17%であった。例えば双子の一方が体操の選手になれば、そうでない他方の姉妹に比べて痩せろと言うプレッシャーがかかるわけです。子育ての影響は全然認められなかったとブリク氏は言う。ブリク氏は今回拒食症に付いては調べませんでしたが恐らく同じ遺伝の影響が見られるだろうと語っている。
摂食障害に付いては他の研究結果からも脳の化学物質に問題があると言われ遺伝的特徴が見られると報告され拒食症及びブリミアに対する考え方が次第に新しい局面に入って来た。この摂食障害はただ単に乙女がスーパーモデルになりたくて努力しているのでなく複雑な生物学的病気であるとブリク氏は結論している。
新しい治療法は今の所無い
カリフォルニア大学神経精神医学研究所の摂食障害プログラム主任であるマイケル・ストローバー氏によるとこの新しい研究によっても治療法に大きな変化は起こらないと言います。「この研究が病気の原因に遺伝子が関係している事を更に裏付けてはいるがどの遺伝子が関連してあるいは環境と遺伝子の組み合わせはどうなのかが分かっていない。今の段階では治療法に寄与するものがない。しかし長い目で見れば生物学的異常が特定され治療に結びつく薬の開発に道をひらくであろう」と言ってます。
トレイシーは未だ切手もなめる事が出来ないしクッキーの匂いをかむ事すら恐ろしかった時に比べれば良くなっている。しかし本当に健康になるかどうか自信が無い。15歳の時から病院に入院する事15回、緊急病室に入れられる事25回、大学の寮からは同室の学生からは何時か死んでしまうのではと恐れられて追い出されている。彼女の母親は自身の問題を話したがらない。「お母さんは医者に見てもらった方が良いとお父さんに言った事があります。何時もお母さんは別に問題がないと言う。しかし問題はある。皆家族は知っている」と彼女は言う。
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