創造性と小脳

2015年5月28日 サイエンスデイリーより
出典:スタンフォード大学医療センター


実験に使われた言葉と描かれた絵
被験者は、与えられた言葉を絵に描きながらMRIで測定される。上は”空中浮揚”、中段は”正確に示す”、下は”疲労困ぱい”の絵。
                  Scientific Reportsから

従来、体で覚える脳、あるいは動作を指示する脳と考えられていた小脳が、予想に反して創造性に結びついているのが分かった。この研究は、スタンフォード大学医学部とハッソー・プラトナー・デザイン研究所の共同研究で発表された。

「創造性とは何であるかが少しわかり始めた」と論文を書いたアラン・レイス教授は言う。この研究は5月28日 に”Scientific Reports”に発表される。その中で、理性の中心である前頭葉を使いすぎるのは、創造性にはむしろマイナスと述べている。

「高度の判断の中枢である前頭前野皮質の活動は、創造性の発揮にはむしろ逆です。創造性とは、それが仕事であれ、遊びであれ、一人一人に備わった高度な特質で、特に芸術、ビジネス、科学では創造性は生命です。私は精神科医ですが、人間関係維持にも創造性は重要な役割をしている。創造的に人間関係を考える人は、人間関係も良好に維持できる」 とレイス教授は言う。

共同研究は、3年半前に、ハッソー・プラトナー・デザイン研究所のグレイス・ホーソーンが、レイスを訪れた時に始まった。この時ホーソーンは、レイスが創造性の客観的測定方法を知っているか聞きたかった。測定方法が分かれば、ホーソーンのデザインコースの学生にも役立つのではないかと考えたからだ。

「実は、それを聞かれてもあまり確かな事は言えないのです。まず、創造性とは神経生理学的に何なのかを、実験で確かめなければならない」とレイス は言う。

創造性の測定
創造性の測定は簡単ではない。過去25本から30本の研究がされているが、多くは、ジャズプレイヤーやエミー賞受賞者のような有名人の創造性と脳神経学的研究だと、論文を指導したマニッシュ・サッガーは言う。

「誰でも創造的に考えたいが、どうやって創造的に考えられるのか。無理に創造的に成ろうとしても、逆に創造性は萎む。問題は、この手の実験をする時には、被験者はMRI装置の下に寝て脳スキャンをしなければならないことだ。これは創造的考えが最も出難い環境である」とサッガーは続ける。
「創造性発揮には人は自由に解放されていないとならない。そうでないと、創造性ではなくて、不安とその行動を調べる実験になってしまう」と彼は言う。

サッガーは創造性発見のために、ピクショナリーと言うゲームからアイデアを拝借した。このゲームは、見せられた絵を見ながら言葉を当てるゲームである。
サッガー等は、”選挙する”、”疲れた”、”挨拶する”のような動作を意味する言葉を選び実験した。14人の男性、16人の女性にはMRI装置の下に寝てもらい、これ等の言葉の絵を描いてもらった。場合によってはジグザグの線だけでも良いが、この場合はあまり創造性は期待できない。実験では一つの絵を描くのに30秒与えられ、考えをめぐらすには十分な時間であるが、即興のアイデアを出すには短い。

「私は、単に意味する言葉の絵を描いてくださいと言うだけで、創造性を発揮してくださいとは言わない」とレイスは言 う。

描かれた絵は、MRIルームで使用しても安全な電子タブレットで、ホーソーンとアダム・ロイヤルティーに送られる。ホーソーンと彼女の学生は、絵が適当であるか、創造性があるか、要点がいくつほど見られるか、どれほど念入りに描けているか、オリジナル性はどうかの5段階に分けて分類 した。

MRI測定室から出た被験者には、テストした言葉の描き難さを順番に上げてもらった。すると、主観的に難しいと感じる言葉は、左前頭前野皮質の活性化に結びついていた。この脳は注意の集中と評価に関係する脳である。

しかし、測定者から判断して、高い創造性を発揮していると思われる時は、前頭前野皮質の活動はむしろ低く、その代わり小脳が活発に作動して いた。
分析によると、絵を描いている時は複数部分の脳が活発に作動していたが、単にジグザグの線を描いている時はそうでなかった。高い創造性で絵を描いている時は、小脳と、動作の総合調整をする脳、スケッチブックの役割をする脳で活動が活発であった。

考えれば考えるほど創造は遠のく
小脳が活発化したのは驚きであった。猿の実験では、学習したり新しい動作を練習する時、小脳が活発化するのは既に分かっている。多分、専門家はこの現象の理解に苦しんでいたのだろうと、サッガーは言う。最近の研究では、人間の小脳は、動作以外の他の脳にも強く連絡しているのが分かっている。
「解剖学的知見からも、小脳は単に動作の中枢以上のものがある」とサッガーは言う。
多分、小脳は前頭前野皮質と同じように、動作の絵を描く力があるのであろうと、サッガー等は推測する。小脳は、前頭前野皮質に代わって繰り返し描きながら、無意識的に絵を完成させる。その結果、前頭前野皮質は描く作業から解放されて、次の問題解決へと前進する。

「小脳は脳全体の役割調整の作業をしていると思う。そのお蔭で、脳全体として効率を上げることが出来る」とレイスは言う。

「我々の研究からも分かるように、意図的に創造性を発揮させるのは良くない。前頭前野皮質が重要な役割をしている事には変わりないが、その負担を軽減させることがむしろ創造性につながる」とレイスは言う。

サッガーは「考えれば考えるほど創造性はしぼむ」と言い切る。



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