最近の脳スキャンの現状

2003年12月3日
最近の脳スキャン技術の進歩はめざましく、分裂病の原因が次第に分かって来た。2日のシカゴからの報告によると、分裂病ばかりでなく、難読症、非社会的行動等の問題を解き明かす日が来るのでは無いかと期待されている。

「最近は脳スキャン装置を用いて脳の内部を生きている状態で見ることができます。ですから脳の構造やその動きが具体的に見えるわけです」とニューヨーク市アルバート・アインシュタイン医科大学の放射線と心理学の助教授であるマンザー・アシュタリ氏は言う。

氏は最近分裂病と診断された10代の若者の脳スキャン写真を示した。写真では脳内のミエリン化(myelination )と言う現象に問題が起きていると氏は説明する。ミエリンは白色物質と言われ、脳細胞を絶縁する働きがあり、これにより脳細胞は情報を確実に伝達できる。この発見は北アメリカ放射線学会の会合でアシュタリ氏により発表された。

アシュタリ氏と精神科助教授のサンジブ・クマラ氏は改良版MRIスキャンである拡散テンソル磁気共鳴画像法
を使って白色物質であるミエリンの撮影に成功した。ミエリンは従来のMRIでは撮影が困難であった。

脳内でスイッチボックスの役割をするヘッシル回と呼ばれる部分が不完全なミエリン化により作動不良になっているのが分った。健康な脳では耳から入ってくる音はこのスイッチボックスにより前頭葉と言われる判断の中枢部分に送られる。

分裂病の一般的症状は幻聴であるが、スイッチボックスが正常に作動しない為に前頭葉に音声が伝わらず、幻聴現象が起きているのではと研究者は推測している。なお分裂病の発生率はアメリカ人口の1−2%である。

「ヘッシル回と前頭葉を結ぶ連絡路がこの種の情報を一元管理しているのですが、連絡路に問題が発生して情報が上手く伝わらなくなると、混乱が生じ、自分の脳の声なのか外部から聞こえる声なのか分らなくなる」とクマラ氏は言う。

実験は分裂病と判定された20人の10代の若者で行われ、彼らのスキャン写真は健康な若者17人のそれと比較された。分裂病の診断は幻覚、妄想、思考の混乱、奇怪な行動、それと陰性症状である動作の不活発あるいは活動する喜びの喪失等の症状を2つ以上持つことで診断された。

拡散テンソル磁気共鳴画像法とは現在ある脳スキャン技術の1つで、生きている脳を様々な条件下で観察でき、脳そのものの観察と化学物質の動きを調べることができる。

「現在我々は脳と各種病気の関連性について新しい情報を得ている所です。私が研究している分野では文字通り殺人犯や凶悪犯の脳を研究しています。こんなことはつい少し前には考えられなかったことではないですか」と南カリフォルニア大学の神経学者であるエイドリアン・レイン氏は言う。

レイン氏によると凶悪犯の脳梁
には構造的にも機能的にも重大な異常が認められるとしている。脳梁は脳の左半球と右半球を連結する神経線維の塊で左右半球の情報伝達をすると同時に、感情のプロセス、注意の喚起、覚醒等に重要な働きをしている。ここに問題があると人を凶行に駆り立てるのでは無いかと推測される。

「精神異常者は健全な感情が鈍磨していて社会性が消滅している。恐らく脳梁での神経細胞同士の配線欠陥によるものと推測します」とレイン氏は語る。

アシュタリ氏が発見した若年分裂病患者の脳のミエリン化不全は大人にも発見されて、大人ではミエリン化不全を起こしている部分が更に広がっていると氏言う。即ち分裂病の初期は部分的ミエリン化不全であるが年を取るにしたがって他の脳の部分に広がると考えられる。

次の研究としては分裂病発病リスクが高い子供を調べて回の部分に初期の変化が発見できるか、発見できるのなら、それが診断材料になるかだ、とアシュタリ氏は言う。彼女の研究はNIMH(国立精神衛生研究所)と分裂病鬱病研究協会の援助の元になされた。

もし分裂病ではミエリン化に障害があるなら、この白色物質を再生する薬の開発も可能である。あるいは、ある種の栄養不全より起きたとも考えられるから、それなら食餌療法も開発できる、とアシュタリ氏は言う。

この会議では更にウェイク・フォレスト大学のジョナサン・バーデッテ氏による研究報告もあった。氏によると難読症患者の脳にも脳スキャンではっきり認められる異常が発見されたと報告している。難読症はアメリカでは10人に1人がかかっていると推測される。

fMRIを使ったこの研究によると、患者に音声を聞かせてそれに対応する文字を探させるテストをした所、側頭頭頂(temporoparietal)と呼ばれる部分が正しく反応していなかった。ここは音声を言葉に結びつける働きをすると考えられている。

この研究を更に続けると難読症の早期発見技術につながるだろうとバーデッテ氏は言う。



脳科学ニュース・インデックスへ