精神病は互いに似ている

2013年2月28日

鬱病、躁鬱病、統合失調症、自閉症には互いに共通する遺伝子の素地があり、一つの問題から派生した別個の症状と言えるかも知れないことが新しく発表された。
押し黙った自閉症の子は躁状態の大人とも違うし、統合失調症の人とも違うが、研究によると、これら3つの心の病気は以前考えられていたほど違っていないらしい。

研究では、ヨーロッパ系の人たちの中から自閉症、統合失調症、鬱病、躁鬱病、ADHDの患者33,000人を抽出して、同系統の健康な人、28,000人と遺伝子を比較解析した。その結果、これらの病気には4つの遺伝子領域で共通の変異があった。もしこれが本当だとすると、従来の症状を中心とした診断のやり方から変わる可能性があるとマサチューセッツ総合病院のジョーダン・スモーラー医師は言う。

「この研究は大変面白い。今まで別個に考えていた心の病気が、その基本に共通部分があると言うのだ」とワシントン大学の青少年精神医学のブライアン・キング氏は言う。
「19ヶ国から数万の患者の遺伝子をもちより、それを解析する作業は大変重要なことだ」とインセル所長も言う。

4つの変異のうちの2つは、カルシウムチャンネルに関わっているのが分かった。カルシウムチャンネルは神経細胞を正常に作動させるのに欠かせない。「カルシウムとその塩化物の正常なバランスは神経細胞の活動に欠かせない」とキング氏は言う。

次第に心の病のからくりが見えてきたようで、その似通った関係が説明できる。例えば、自閉症は過って子供の統合失調症とされていた時があった。自閉症の子供が自分の内部世界にこもっている状態が統合失調症に似ていたからだ。同様に統合失調症の大人が自閉症と診断された時もある。この人は子供の頃、自閉症に似た症状を持っていたからである。

「躁鬱病を持つ家族では統合失調症を発症する割合が少し高まる。だから我々は2つの病気には何か重なるものがあるのではと考えていたのですが、それが何なのか分からなかった」と研究発表の一人であるトーマス・レーナー氏は言う。

発見された遺伝子変異のあるものは鬱病に特有で、あるものは統合失調症に特有であった。多くの患者は症状を幾つもかかえ、時々病気どうしが互いに重なって見える。共通する遺伝子があると認識すれば、似通った症状に惑わされず正確な診断が出来る。

インセルはインフルエンザとマラリヤに例えて話す。「インフルエンザはウイルス性でありマラリヤはバクテリアの感染で起きているが、両方ともに患者は40度の高熱をだし、発汗と筋肉痛に苦しむ。現在の”精神障害の診断と統計の手引き(DSM)”的手法では診断に苦しむ。だからと言って今のDSMを駄目だといっているわけではないですが、これでは不十分です」とインセルは言う。

今回の発見はまだ始めに過ぎず、何故カルシウムチャンネルの異常により、ある人が自閉症になり、ある人が躁鬱病になるのか調べないとならない。この部分が分かり始めると、主な精神病に対する考えが大きく変わるであろう。

「我々が現在のDSMにより、ある患者がADHDと自閉症をあわせ持っていると診断したとする。でも良く考えてみるとそれは当然で、2つの症状を起す生物学的メカニックが存在している可能性があるからだ」とキング氏は語る。

しかし、レーナーもインセルも今回発見された遺伝子変異が必ずしも病気を起しているわけではないと強調している。「あるとしてもリスクが少し増大する程度で、それが統合失調症であるとすれば、割合は10%増えるかどうかの程度なのです」とインセルは言う。

しかし、脳の発達が何処で阻害し始めたか、どのように神経回路に問題が生じたかが分かると、新しい治療の道が開ける。このような新しいアプローチを具体化するために、新しいシステム”Research Domain Criteria”を準備し、心の病をこれまで以上に多方面から研究することにしている。このように、主な精神病には共通の遺伝子があるとした研究から、心の病の多次元的観察が可能になった。

「”Research Domain Criteria”では色々な情報を入力する。DSMのアプローチは精神病を理解するものと言うより、医師の請求書の作成のためにあるのかもしれない」とインセルは言う。
このような考え方の変化は専門家も歓迎するところだ。遺伝子はそれ自身がリスクにもなり、リスク回避にもなる。脳がどのように成長するか、どのような成長阻害が起きるかが分かれば、その異変をとらえ予防が可能になるかも知れない。


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