2013年8月1日 |
統合失調症の胎児期の混乱した遺伝子ネットワークの様子が明らかになった。この研究は逆行分析(リバースエンジニアリング)と呼ばれる手法で、自然に発生する遺伝子変異が何時、脳の何処にどのような障害を起すかを分析した。その結果、統合失調症の患者では、胎児期に前頭葉の神経細胞発生に障害が起きていた。 「統合失調の脳の遺伝子変異を調べると、脳の発達に何が必須なのか分かる。統合失調症は単一の遺伝子変異で起きているのではなく、沢山の変異遺伝子が関与している。我々の研究では、変異遺伝子のネットワークが、前頭葉の神経細胞発生をおかしくさせていた」とワシントン大学のメリークレアー・キングは言う。 この研究は2013年8月1日、雑誌”細胞”に、ワシントン大学のキング氏等により発表された。「遺伝子構造とその機能の研究により、統合失調症では脳の成長初期段階で異常が起きていているのが分かった」とインセル所長が言う。 今までの研究では、自然発生する遺伝子変異が、脳の発達段階でどう影響するのかはっきりしなかった。キング等は、オンラインで得られるトランスクリプトームのデーターを使って、遺伝子が何時、脳の何処でスイッチをオン・オフするかを調べた。(トランスクリプトームとは特定の状況下において細胞中に存在する全てのmRNAの総体を指す呼称 ) 研究では、統合失調の履歴のない家族を選び、その中で統合失調症を発症した105人と病気を発症しなかった84人の脳を調べ、自然発生した変異遺伝子を比較した。結果は、50個の遺伝子(異常なネットワークを形成すると疑われる)で、胎児が成長する段階で表現が最も活発であった。その後、子供の頃は不活発になるが、思春期に再び活発化していた。問題とされる遺伝子は、移動する細胞、神経細胞間の情報伝達、遺伝子の表現、神経細胞内の動作に重要な役割をしていた。 男性が高年で子供をもうけると、統合失調症を発症している子供、発症していない子供の両方で自然発生変異遺伝子が増える。しかし発症をした子供では、蛋白機能に損害を与える変異遺伝子が多く、この発症リスクは21%とされた。 有害な変異遺伝子ネットワークは、互いに影響しあう。統合失調症を発症している人では、沢山の結節(遺伝子同士がつながる場所)を発見した。統合失調症を発症した胎児の前頭葉では、有害遺伝子ネットワークの連結性が強化されていた。しかし、発症している子供でも、有害でない変異遺伝子ネットワークは違わなかった。 この研究は、従来からの統合失調症の説明を裏付けている。研究では、前頭葉の高度の機能障害が統合失調症の発症サインであろうとしている。前頭葉は脳の総合司令部の役割をして、他の脳から情報を集めて思考、計画、注意集中、問題解決、自己コントロール等の高度の決定をしている 「遺伝子が時間的、空間的に相互作用し合う様子が分ってはじめて、統合失調症の原因に迫ることができた」とゲノム研究部門のトーマス・レーナーは言う。 脳科学ニュース・インデックスへ |