決断と無意識


人だとか場所を判断するのに第一感で判断して間違う事は余り無い。どの目覚まし時計を買うか、どの携帯電話を買うかと迷う時に、余り難しい事を考えないのが普通である。

しかし、家を選ぶとか長期の休暇の過ごし方などを決める時は、我々は判断材料が多すぎて判断を先延ばしにする事があるが、今回の研究発表によるとそれが正しいようである。

先週サイエンス誌に発表されたオランダの研究者の報告によると、人が困難な決定する時にはむしろ注意を外らされたり、意識を集中する事が出来なかった時に良い決定をしているのが分かった。

一般に言われる「判断出来ない時は先送りしろ」の例えが正しかった事になる。そればかりか無意識の心は、フロイトが説明するような悪い夢をみたり、うっかり失言の原因を作るのでは無く、活発に論理的に判断しているのが分かる。

「大変素晴らしい研究だと思う。過去の偉大な発見と同じく、無意識については更に疑問が湧いて来る」とバージニア大学の心理学者であるティモシー・ウィルソン氏は言う。

人は膨大な情報を無意識下に処理しているのが過去の研究で分かっている。例えば、別室での会話に自分の名前が出てくる時など、意識していなくても注意が向く。今回の研究によれば、我々はレーダーの様に情報を取り入れ、慎重に把握し、無意識下で判断している。

研究では80人の学生に4種類の違った性能(年代、燃費、変速機、操作性)の車から自分に適したものを選ぶテストをした。一つの学生のグループには性能を矢継ぎ早に説明した後、4分間熟考するように命じた。他のグループには、同じ説明をした後になぞなぞを与えて注意をそらして、その結果を測定した。

考慮に入れる性能が4種類の時は熟考したグループが良い選択したのに対して、性能が12種類に及ぶ時は、なぞなぞを与えられたグループの方が良い結果が出た。

無意識の心は意識的に作業するより、余ほど情報を正確に処理しているし、先入観にも左右されないと論文の著者は説明している。

「例えば、家の広さが気に入った人は、実際住んで通勤するまで通勤時間の長さに気が付かないようなものです。無意識はそんな時にも通勤時間を計算に入れている」と著者は言う。

研究者は40の商品や資産について、その複雑係数なるものを策定した。それぞれの商品を買うときにどれほどの数の性能や利点を考えて購入するかにより係数をつける。車、コンピューター、家は最上段に来て、衣服は中央に、オーブンの手袋や傘は最下段に来た。

この係数を基にして、最近これらの商品を買った被験者の学生の満足度を調査した。その結果は、買うときに十分性能、利点を考慮した場合は満足度が高いのが分かった。しかし複雑係数が高い商品や資産の場合、その反対の事が起こった。即ち、意識的にゆっくり考慮して購入すればするほど、満足度が低かった。
家具専門店とデパートの出口で調べた調査によっても上と同じ傾向が見られた。

しかし、この研究は判断をするプロセスに踏み込んだばかりであり、未だ分からない事が沢山あると他の心理学者は言う。例えば、無意識中の感情とか記憶は決定に重要な役割をするのに、この研究は考慮に入れていない。更に決定する時にどの判断が優先されたかもはっきりしない。

「会社の幹部が部下からの重要な報告書を読んだ時に、余り考えない方が良いとでも言うのであろうか。この研究は判断、決定に無意識が関わっているのを良く説明しているが、まだ分からない事ばかりだ」とブリティッシュコロンビア大学心理学のジョナサン・スクーラー氏は言う。


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