人生は遺伝子で決めらているか

2023年5月11日


アイスランドの首都レイキャビックの郊外にある建物の地下では、ロボットが血液を自動検査している。世界から集められた血液サンプルから個性を決定する遺伝子を求めて研究が行われている。アイスランドが選ばれたのはアイスランドが地理的に世界から隔絶しているため、アイスランド人の遺伝子は外部からの影響が少ないためだ。

DNA読み取った後、AIを使ってデーターを個人の食事の好み、性格、伴侶の選択、趣味、病気と比較して分析する。建物はdeCODE genetics社の所有で、既に40万人以上のゲノムを読み取り、世界で一番の実績を誇る。ここでの分析がアルツハイマー病、統合失調症、冠動脈疾患、癌、慢性疾患の疑問に答えられるかどうか。

DNAと病気関連の分析も重要であるが人の性質、嗜好、人間関係まで探れたら面白いだろう。一体われわれの行動は、どこまで自分の意思で、何処までが生物学的に決定されているのであろうか。

「人間はDNAと環境の相互作用の産物です」とdeCODE genetics社を開始したカリ・ステファンソンは言う。

ゲノムを超えるもの
現在73歳になるステファンソンは、人間の行動は親から受け継いだゲノムと、70個の自然発生した遺伝子変異により決定されると言う。コーヒーが好きかお茶が好きかは、味を感じる遺伝子の変異で決まっているのだろう。コーヒー党にはカフェインの苦さは気にならないが、お茶愛好家には好まれない。運動でも一人独走のジョギングを選ぶか、テニスのようなチームプレーを選択するかを決め、しかもどれほど熱心にやるかまで影響している可能性がある。

15年前に行った2000人のイギリス人を調査した結果では、趣味の遺伝子なるものが見えて来た。人の家系とその余暇の楽しみ方が一定方向を示していたからだ。調査に参加した人たちも、自分だけの趣味かと思っていたら家系に何人もいたので驚いていた。

世界から同じ意見が寄せられ、父母、祖父、祖母の趣味に自分も引き付けられたと述べている。
「私は子供の頃、母親が自分を地域の園芸クラブに連れて行って、ハイブリッドのトマトとかカラシの発芽とか見せてくれたが、大人になって気が付いたら園芸をやっていた」とカナダ・オタワで保険の仕事をしているマイケル・ウォロンコは言う。

deCODE's社も同じ結論に達していて、 「クロスワードが好きになる遺伝子を持つ人はクロスワードが好きになる。しかしその遺伝子によりゲームの強者になるかどうかは分からない」とステファンソンは言う。

世界の新規ハイテク企業は、早い段階で人の才能を見つける研究をしているが簡単そうで難しい。ドイツのマックス・プランク研究所は 、ROBO1 と言う遺伝子と子供の数学才能を研究をしてきたが、ROBO1は脳の数字に関係する分野の灰白質の成長を促進しても、遺伝子が才能を作るかははっきりしなかった。

実は遺伝子はわれわれの好みとか性質に影響を与えているらしい。確かに才能を開花させるのは機会であったり教えてくれる人であったりするのをわれわれも経験している。ニュージャージー・ラトガーズ大学のダニエル・ディックによると、外向性、内向性、誠実さ、愛想の良さ、衝動性、創造性は遺伝子によると言う。

「遺伝子は脳を作るから考え方、環境に対する反応を形成する。その結果、ある人は刺激を好み、ある人は用心深くなる」とディックは言う。

刺激を好む性質は企業家、戦闘機乗り、スポーツ選手等には有利であるが、依存症にもなりやすい。一方、創造性を生み出す遺伝子は統合失調症を発症しやすいとステファンソンは言う。

ディックは150万人のDNAを検査して衝動的にする遺伝子を発見した。この遺伝子を持つ人は子供の頃注意欠陥多動性障害を発症する傾向にあり、思春期にはタバコや麻薬に手を出す傾向があった。

「遺伝子はわれわれの好みを決定するが運命ではない」とディックは言う。
環境が果たす役割は大変大きい。抑制を難しくする遺伝子を持つ人がファーストフードレストランの近くに住めば過食してしまう。その彼らも良き家族と友人に恵まれればそれを避けられるとステファンソンは言う。
「危険な遺伝子を持つ人こそ良い環境から得るものが大きい。良い環境は好ましくない遺伝子を抑え、方向を逆に向ける事も出来る」とカナダ・マッギル大学のセシリア・フロアは言う。

愛の遺伝子
4年前にイェール大学では37歳から90歳までの178組の結婚カップルを調査した。彼等には結婚生活での幸せ、安心を質問し、唾液を採取して遺伝子検査をした。分かったのは相手を選ぶときに身体的特徴が似ている対象を選ぶ傾向にあったことだ。
「遺伝子が似通っている人を選ぶ」とイェール大学のアンドリュー・デュアンは言う。

遺伝子は安定した幸せな関係を維持する役割をしていた。イェール大学の研究では、離婚した夫婦の子供もまた離婚する確率が高かった。夫婦のどちらかが愛情ホルモンのオキシトシン分泌を活発にする遺伝子を持つと、夫婦関係は安定していた。

夫婦関係を不安定にする要素に不安型愛着と言うものがあるが、そのような傾向の人は自尊心が低く拒否されると敏感に反応し、過度の承認を求める。
「遺伝子は人間関係の幸不幸に関係する。遺伝子が全て決定するわけではないが、一つの要因であるのは間違いない」とデューアンは言う。

医学は遺伝子からその人の傾向が分かれば医療処置に応用する。イタリアの生物統計学の専門家である二コラ・ピラスは、人の好みが果物、野菜を食べるスタイルからカロリーの高い食べ物に変化しているのは、遺伝子変異の可能性があるとして、肥満抑制には食事制限より遺伝子に注目すべきの発言をしている。

「体重を落とすのは大変難しい。確かに食事制限でも出来るが長期に維持するのは容易ではない。もし遺伝子操作で食欲を落とす事ができれば大変な進歩だ」と二コラ・ピラスは言う。

遺伝子読み取りの費用は次第に安くなっていて、将来依存症発症の予防に応用できるかもしれない。
「依存症は遺伝子次第とまで言わなくても、遺伝子の解析により恥じる事なく対処できる」とディックは言う。

依存症になりやすい体質を早い段階で見つけられたら依存を防ぐことが出来るとディックは考える。
「それなのにアメリカでは大麻を解禁し、オンラインカジノを許可している」と彼女は批判する。

まだ科学は遺伝子の役割を理解する入口に立ったばかりだ。
「人の考えが遺伝するかどうかを知りたいが、考えとは何かの定義が定まっていない」と彼女は言う。



脳科学ニュース・インデックスへ