抗鬱剤、会話療法、電気ショック療法に反応しない難しいタイプの鬱病に対して、過去10年、脳に電極を埋め込む手術が試みられているが、まだこの技術は政府に認可されていない。
今日10月4日、the American Journal of Psychiatry"誌に、電極埋め込み型手術を受けた重度の鬱病の患者の追跡調査結果が発表された。それによると、手術後8年間効果を維持していた患者もいた。
「効果が長く持続したことが嬉しい」とマサチューセッツ総合病院のダーリン・ダワティーは言う。電極埋め込み型治療は脳深部刺激療法と言われて、パーキンソン病の震えの治療に既に応用されている。
鬱病の患者の脳ではブロッドマンエリア25と呼ばれる部分が過活動していて、この部分の活動を抑えれば鬱状態を改善できると考えられている。電極埋め込み手術は電気刺激でこの部分の活動を抑えようとするもので、手術は一回だけで済む。
トロント大学のヘレン・メイバーグは2000年から脳深部刺激療法を試みているが、ブロッドマンエリア25への関心は、1990年代に遡る。
今回の発表は、エモリー大学で深部刺激療法を受けた患者28人についての詳しい追跡調査である。3人に一人は手術後数か月で症状は大幅に緩和され、半数で症状は緩解し、数年後もその状態を維持していた。
「心臓のペースメーカーのような装置を装着するだけで症状が良くなり、効果が持続したのが重要だ」とメイバーグは言う。
28人の患者の内14人は8年間、11人が4年間に渡って調べられたが、残念ながら3人は電極装着を外していた。殆どの患者は手術前も手術後も抗鬱剤を飲んでいる。患者の内7人は躁鬱病の患者で、深部刺激療法を施すと躁状態を起こしてしまうのではないかと危惧する向きもあったが、それは起きなかった。
3人に自殺未遂があり、回数は5回で重症の鬱病としては少ない。器具の誤作動、細菌感染等の手術による合併症は19件あったが、パーキンソン病治療に行われる深部刺激手術と同程度である。
バッテリーの劣化のため、数度の手術をした人もいた。しかし最近はバッテリーも進歩して、無線で充電できるようになっている。手術の技術進歩も大きいとメイバーグは言う。
にも関わらず、政府の許可を得るには容易でない。時間と費用がかかり、以前、メドトロニックとセイント・ジュード・メディカルが深部刺激療法を鬱病に試みているが、開始後6カ月で中止している。
オーストラリア、クイーンズランド大学のスティーブ・キズリーは、実用化にはデーターが不足しているとしている。政府の認可を得るには、装置の更なる進歩と手術実績の積み上げが大事であるとダワティーは言う。
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