解離性障害

2019年2月3日
 

解離性障害とは現実感覚の喪失である。マリワナを吸った後、何時になっても覚めない感覚と表現出来るかも知れない。

解離性障害を最初に経験したのは私が25歳の時であった。両親の家でテレビを見ていると、いきなり不安が襲って来て、壁が自分に迫って来るように感じた。手を見ると、自分の手に見えない。発作は間もなく治まったが、その後も異常感覚は消えず困難な生活が始まった。

私はライブの演奏をする音楽家で、元来、心の病とは無縁な人間であった。何故こんな事になったのだろうか。一つ思い当たるのは、最近オランダのアムステルダムに行き、マリワナを吸ったことだ。マリワナの効果は思ったより強く、影響が中々消えなかった。
その晩、一晩眠れば何とかなるだろうとベッドにもぐりこんだが、朝になっても様子がおかしい。自分自身を窓ガラス越しに覗いているような感覚で、シャワーを浴びても変化がない。朝飯を食べに降りて行って両親にお早うと言うが、普段と感覚が違う。何か自分が現実から切り離されているように思えた。

次の日に、アイルランドのコークにバスで1時間半かけて行った。道中、窓から外を見やると、景色が普段と違う。広大な景色が自分に迫って来て、圧倒される。もし、このまま何時もの感覚が戻らなかったらどうしようと考えて、ぞっとした。

その後、私の症状が解離性障害(Depersonalisation Disorder)と言う心の病気である事を学んだ。
解離性障害とは、広義の意味で不安症に入る。普通パニック発作から始まる事が多いが、現実感覚の欠如、無感情感覚が生じる場合、解離性障害と判断する。統合失調症のような妄想状態はないが、現実感覚を喪失し、幻覚に襲われる。
イギリス国民の2%が罹患していると言われるが、診断で発見される事は少ない。
若い人ではマリワナを吸った後に発症する事が多いと言う。

私の場合、最初焦ったために、パニック発作を度々起こした。食事もまともに取れないので、一カ月で7㎏ほど痩せた。何時も午前中は調子が悪く、部屋を暗くして寝ていた。運動好きで、社交性のある自分が、今は引きこもりになってしまった。
愛犬を見てもよその犬に見えるし、空を見るとその広大さに圧倒されてしまう。現実感覚が戻らない自分を考え、将来を悲観するようになった。

一か月後、医者に行き、自分の症状を説明した。自分でも混乱しているのだから、説明と言っても意味不明になっていたかも知れない。
医者は不安と鬱状態と診断し、薬を処方し運動を薦めた。薬はベンゾジアゼピンでさっぱり効果がないし、運動もダメであった。

家に戻ってから数か月後にどん底が待っていた。スコットランドで親戚の結婚があって、それに出席することにした。行くには行ったが式の途中耐えられず、暗くした部屋で寝たほどであった。帰りの飛行機の中でも激しいパニックに襲われる。

ある日、インターネットで検索していたら、解離性障害と言うページがあった。そこには掲示板があり、書き込みを読むと、自分と同様に悩む人が沢山いて驚く。ここのページに勧められるままに、瞑想、マッサージ、運動をするが、結果は思わしくなかった。

その後、ある心理学者にあい、自分の症状が解離性障害であるのを再度確認した。彼によれば、解離性障害の症状は、トローマや不安が原因で起きて、多くの場合一時的で、慢性になる事は少ないと言う。彼は私の訴えを丁寧に聞いてくれたので、その後数回面接する。
インターネット上では患者同士が活発に議論を重ねているのに、一般の医師で解離性障害が分かる人が非常に少ない。

一年が経ち、症状と共に生活する事を学んでから、ゆっくり症状は改善し始めた。症状を深刻に受け止め、原因を突き止めうようとしたのが悪かったらしい。今は仕事を開始し、ライブの演奏もやっている。食事も普通に食べるようになり、体重も回復した。気を付けないといけないのは、解離性障害の掲示板を見過ぎないことだ。
今まで得た知識によると、解離性障害とは脳の安全装置で、激しい不安に襲われた時に脳を守るために作動するらしい。
多くの場合、数秒から数分で終わると言う。この脳の安全装置説に納得し、今後再発する事があっても、焦らない事にする。

それから10年経ち、生活は元に戻った。コークに帰り、人と普通に付き合い、旅行もする。現在はテレビ、映画のディレクターとして働いている。ここまで戻るとは、あの頃はとても考えられなかった。



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