即効性の抗鬱薬が求められて久しいが、ケタミンが、患者の喜びを求める心を急激に回復するのを確認した。あらゆる治療に反応しなかった躁鬱病の患者も、ケタミンを投与後40分で、喜びを求める感情がもどり、それが14日間維持された。 脳スキャンで調べると、脳の前部と右半球の深部に活性化が見られた。「今まで鬱と一括りにされた症状を、細分化出来るかも知れない。変化が脳のどの部分に起きているかを明らかにして、治療に結び付けたい」とカルロス・ザラテは言う。 この研究結果は、”領域標準プロジェクト”に一致する。領域標準プロジェクトとは、脳の部分毎に機能を分析して、心の病気の詳細を明らかにするプロジェクトである。この研究は2014年10月14日の”the journal Translational Psychiatry”誌に発表された。 鬱病、躁鬱病では患者は鬱で苦しむばかりか、楽しみを求める心にも欠落し、これを改善する治療薬が今までなかった。 ケタミンは以前から麻酔薬として、あるいは若者のパーティードラッグとして知られていたが、最近その即効性に注目が集まっている。従来の抗鬱剤は効果が現れるのに数週間かかっていたが、ケタミンは数時間で抗鬱効果が現れる。研究では、ケタミンによる喜びを求める効果に注目した。 実験では鬱状態の躁鬱病患者36人にケタミンと偽薬を与え、その後の経過を調べた。すると、ケタミンでは特に喜びを求める心の回復が目立ち、他の鬱症状回復から独立していた。 無気力、無快感からの回復は投与40分以内に現れ、2週間後まで効果が続く患者もいた。もちろん、 偽薬を与えらえたグループからも際立っていた。他の鬱症状も2時間以内に改善した。無快感の改善だけでも価値があり、この薬はユニークであることを示している。 患者の脳をPETスキャンでも調べた。PETスキャンでは放射性ブドウ糖を注入して、ブドウ糖がどの脳部位で活発に消費されるかを見る。その結果、ケタミンは脳中央部では無くて、脳深部の右半球前部にある、背側前帯状皮質と呼ばれる部位を活性化していた。 この部分はやる気、楽しみを期待する気持ちに関係するから、ここが活性化して無気力、無快感が軽減したのだろう。しかしこれを確証するには、現在進めている、鬱病患者を対象としたケタミンのテストの終了を待たないとならない。 ケタミンは神経伝達物質であるグルタミン酸塩にも影響し、それが背側前帯状皮質に影響している可能性がある。また、その下流であるドーパミンにも影響して効果が現れているとの報告もある。 今回の研究で、背側前帯状皮質の活性化が鬱状態からの回復に重要であるのが分かった。今後、どうようにして、ケタミンを効果的に脳に送り込むかが課題になる。今のところ、鼻から送り込むスプレーも考えられている。ケタミンは依存症になりやすく、幻覚や記憶喪失の原因にもなるため、現在は政府未承認で、獣医だけに使われている。 脳科学ニュース・インデックスへ |