楽観と悲観は隣り合わせ

2007年12月14日

人間は時として、とてつもなく将来を楽観的に見て、起こり得る危険を過小評価する傾向があるとニューヨーク大学Ph.Dであるエリザベス・ヘルプス氏は言う。しかし中程度の楽観はむしろやる気を引き起こし、心の健康を保つ上に重要であろう。

ヘルプス氏らの研究によると、楽観的幻想は悲観の極に現れる鬱状態と同じ脳の回路に起因しているのが分かった。前部帯状回はこの回路を使って扁桃体をコントロールしている。又感情をコントロールする神経伝達物質であるセロトニンを抑制すると、楽観も一時的に中断された。ウェイン・ドリベット氏の率いるグループが、fMRIを使った研究でこの事実を発表していた。ヘルプス氏等はこの発見を2007年10月24日号のネイチャー誌に発表した。

ヘルプス氏等は、人は何故長生きすると信じ、出世を当然と考え、離婚の可能性を低く見るのかを調べた。

15人の被験者が賞を獲得したとか、恋愛の破局とかを想像し、その楽観及び悲観の程度を指数化し、脳の活動の変化と比べた。

予想されたように被験者は、起こり得る楽しい事をより強く期待したのに対して、悲観的なものを遠ざけた。

帯状回と扁桃体を結ぶ回路は、楽観した時に活性化し連結を増した。帯状回の前の部分(吻側前帯状回)は楽観するとより活性化した。注:画像を参照、赤枠部分が吻側前帯状回。この吻側前帯状回(Rostral anterior cingulate)は楽観を予感する時に感情、動機、自分の過去の情報を動員して判断する。

しかし同じ回路が反対の役割もする。以前のドリベットの研究では、この帯状回と扁桃体を結ぶ回路が鬱状態にも関係していた。

最近のドリベット氏等の研究によると、健康な被験者でトリプトファンが抑制されると、今まで鬱状態を経験したことが無い人でも楽観が影を潜め、吻側前帯状回の活動に変化が認められた。(トリプトファンはセロトニンを体内で生産する時の前駆物質である)。

健康な脳でセロトニンが欠乏した時の反応は、Neuropsychopharmacology誌に2007年9月19日に掲載されている。

以前の報告でも鬱状態を経験した人ではセロトニンが抑制されると、感情をコントロールする回路に変化が生じ落ち込みを経験するとしている。

今回の研究では、20人の被験者は楽観的言葉に過剰に反応し、悲観的言葉に反応をする作業を最初怠っていた。彼等は楽観的言葉に呑み込まれ、楽観バイアスに入っていたのだ。しかし彼等がトリプトファンだけが不足した必須アミノ酸入りカプセルを飲むと、楽観的言葉に対する強い反応は消滅した。

fMRI脳スキャンでは、楽観的言葉に反応しない状態では帯状皮質の裏側にある部分も反応しなくなっていた。この現象をヘルプス等も指摘している。ドリベット等は、帯状回の活動の低下と扁桃体を結ぶ回路の低下が鬱状態の発生に結びついているのではないかとしている。

抗鬱剤はセロトニンのレベルを向上させ楽観を強化するため、人生の試練に直面しても回復力をもたらすのではないかと彼等は推測する。



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