2010年12月6日 |
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神経科学者のアントニオ・ダマシオ氏に意識、自己、心について質問します。 ダマシオ氏は一般向けに自意識に関する本”デカルトの間違い”(1994年出版)を書いている。彼はその中で、人間の合理性、意志決定に感情が重要な役割をしていると指摘しているが、それが高く評価をされている。彼の最新の本である”Self Comes to Mind”では、人間と動物がどうして自意識を発達させてきたかを説明している。 私は彼のニューヨークの仮宿に訪問して、色々質問をぶつけた。この部屋からはニューヨークのアッパーイーストサイドが良く見え、彼の部屋には20世紀中ごろ流行った調度品が飾られていた。 何故自意識の発達に感情が大きな役割を果たしているのですか。 我々の自意識、感情を良く調べると、それには生命を維持すると言う重要な役割があるのが分かります。感情は我々の生命を守る道具として発達してきた。感情があるからこそ瞬時に危険を避けるし、自意識はそれを後押ししている。心は我々の周囲をしっかり認識する道具であり、自意識とは己を規定するパスポートみたいなものです。 我々は何故感情を無分別で衝動的と考える傾向があるのでしょうか。 我々の感情は無意識レベルで起きていて、統御が難しいと言う所から来ているのでしょう。しかし何処で夕食を食べようかと考えるときは感情は主役ではありません。 貴方は感じる必要はあると言っていますが。 確かにそうです。人は理性的に生きるべきで、感情に走るべきではないと言う考えがあります。しかし、恐怖その他の感情があるからこそ人間がこうして生存し発展した来た訳で、感情にはその存在理由があるのです。 もし我々が何かに危険を感じれば、その場から逃げる。逃げる行動は感情により引き起こされてはいるが理屈にも合っているのです。我々の行動は感情に裏づけされたときに最も効果を発揮する。 貴方は脳の感情中枢に障害がある人を例に説明していますね。 脳に障害のある人から分かったのは、感情を伴う学習がないと、理性だけでは上手く対処できないのです。 同じことが鬱状態で起きていますね。鬱状態では何が良くて何が悪いか分からなくなっていて決定が出来ない。 そうです。殆ど同じように見えるものの中から、少しの違いを見つけ出し選ばなければならないのは大変面倒な作業です。感情は理性的判断を助けていますが、常に正しい方向に導くとは限らない。特に気持が動転しているときなどは理性的に判断するのは難しい。 どうやって感情が自己を作り出すのでしょうか。 私の最新の本では原始感情について述べています。この原始的感情は脳の深部にある脳幹で発生しています。大変単純な感情で「自分は生きている。自分の体がここにある」だけです。 その原始的感情が意識の背景にあるとおっしゃるのですか。 そうです。原始的感情は貴方の体であり生命です。そこから発展して自己が形成されるのです。 では「我感じる。故に我あり」ですか。 その通り。自分の体を認識して生きていると自覚することが意識の初歩であるなら、次は自分の体が外の世界と接触して何か変化が起きたと知覚することでしょう。 猫を取り上げてみましょう。猫の脳にも体と生命を認識する脳幹があるから、猫にも感情がある。しかし猫は感情経験を意識的に把握できるでしょうか。 出来ます。ではどうやってそれを見つけることが出来るか。猫や犬を観察しながら、人間だったらこうするが彼等もそうするかと見るのです。やはり彼等もそうするのです。猫や犬の脳はその機能において人間と基本的にあまり変わらないから、感情や心があり得ると考えるべきですし実際にあり、特に犬では簡単に見分けられます。人間が動物と大きく違う点は、我々には言葉あることです。でも私はむしろ自叙伝的自意識があるのが人間の大きな特徴だと思う。 猫にも自叙伝的自己があって自分の生命の歴史を記憶しているのでしょうか。 大変地味ではありますが存在します。 「この間、獣医に行かされたが酷いものだった」なんて猫がつぶやくでしょうか。 多分心に描くことは出来ないでしょうが、少し記憶に残っていると思う。 猫をその時運ぶのに使った籠に入れようとすると抵抗すると言うことですか。 抵抗するでしょう。猫にとって飼い主との関係は特別ですが、一方自分が経験したことを自叙伝的にも記憶しているのです。しかしどれほど自分に言い聞かせているかは分かりません。人間では絶えず自分の経験を記憶、解釈、編集していて、人間は生来の自叙伝の語り部です。 しかしその自叙伝的自己には過去ばかりでなく未来もあるのです。我々は常に変化する現在に生きていますが、背後には過去があり、前には未来があります。 動物にも悲しみの感情があるのかと問えば、ある程度あるでしょう。しかし人間の場合はその感情が増幅していて、過去に留まらず未来にまで及ぶから、これは大変な違いです。 自己の形成に脳幹が重要な役割を果たしているのが分かりましたが、脳の他の分野はどうでしょうか。 脳幹には多種類の神経核があり、これ等が自己と関連していて、その中でも特に生命を統御している神経核がそうです。大脳皮質、特に後内側皮質が自己決定に重要です。 どうやって分かるのですか。 脳の障害を負った人を見ると分かるのです。アルツハイマー患者の末期には殆ど植物状態になり自己は消失する。上に述べた自己を形成する脳の領域は麻酔が良く効く部分であり、昏睡状態から回復したときに最初に血流が開始される場所でもある。 私は一度、歯医者で酸化窒素の麻酔を受けていたときに不思議な経験をしたことがあります。何か自分が溶け出たような感覚で、歯医者も場所も自分も分からなくなってしまいました。 麻酔のために起きたのでしょう。多くの麻酔では文字通り自己が消失します。意識とは知る手段ですから、そこが消滅すると理解、判断、知覚が消滅し、世界も消えてなくなる。 インターネットが我々の意識に与える影響をどう考えますか。 ある一定の影響があると思うし、特に子供に起きると思う。これから成長する子供が一時に複数の作業をするのが果たして良いのか悪いのか。記憶とはトレードオフの関係にあり、記憶を弱くさせるのではないだろうか。 脳科学ニュース・インデックスへ |