解離性同一性障害

2021年3月22日


今28歳のマーシャは、既に大人なのに自分自身を小さい子と呼ぶ。6年前に生まれたと感じるらしい。お母さんによると、彼女は小さい時に虐待を受けたと言う。母親が何があったのと聞くと、
「思いだす事が出来ない。小さいままでいたい」とだけ答える。彼女の多人格は、時々入れ替わるが苦しみを和らげるのに役立っているようだ。

今テレビのワールドチャンネルでは“忙しい内面”と題するドキュメンタリー番組が放映されているが、マーシャはその中で解離性同一性障害に悩む女性として登場する。この番組は4月15日まではインターネットでも無料で見られます。
今ままで多重人格障害と呼ばれていた解離性同一性障害は、アメリカでも約1%の人が罹患していて、主に女性がこの症状に悩む。残念ながら殆どの人はよほど追い詰められるまで、精神科を訪れる事はない。

マーシャの治療を担当しているサラピストのカレン・マーシャルも、同じ症状を苦しんだ。彼女の場合は17もの人格が登場する。彼女の虐待の原因は自身の母親で、性的にも肉体的にも母親から虐待を受けた。そのため、母親が死んだときは、大変喜んだと言う。この経験をもとに彼女は多重人格障害セラピストを目指した。

”解離性同一性障害”と言う新しい名前を与えたスタンフォード大学のデービッド・スピーゲルは、
「我々は子供時分に自分の人格を形成する。しかし、本来愛してくれる人に虐待された場合、その環境から身を守ろうとして自分を切り離す。一つの手段として仮の人格を形成する分けで、これが多人格の正体だと思う。 解離性同一性障害の患者では、扁桃体はストレスのために委縮し、ストレスホルモンに対しても過剰反応するようになっています」と彼は言う。

「虐待を受けた頃はまだ子供であるから如何して良いか分からない。そこで、心の中に小さい箱を作り、その中に自分を入れるのです。それでも事態が治まらない時は、更に次の箱を作る」とマーシャルは説明する。

ドキュメンタリーに出て来る女性サラには7から8の人格がある。
「今でも寒い地下室に肌着姿で入れられ、二人の男に押し付けられている場面を思い出す。この光景が始まると全てが停止してしまう」とサラは言う。

セラピストのマーシャルはマーシャに、大人になると人は幾つもの仮面を使い分けながら生きるものですと元気づける。
多重人格障害の患者では、一つの人格がもう一つの人格に入れ替わる時があり、その時、時間の整合性がなくなり記憶も飛んでしまう。マーシャルが治療したある女性の場合、もう一方の人格は万引き女で、元の人格に戻った女性は、部屋に山積みされている商品が何故そこにあるか分からなかった。

「解離性同一性障害は診断が難しく、多くが鬱とか不安症に診断される。平均して診断されるまで6年間かかる」とスピーゲルは言う。 追い詰められてようやく気が付く以外、多くの人は分からないで一生を終わる。ドキュメンタリーにはある企業の幹部が出てきて、彼女は無難に仕事をこなしているが、ある時、家庭の問題で追い詰められて多人格が出てしまい、それで仕事を辞めている。

解離性同一性障害では患者は治療そのものを嫌う。彼等は治療をする人を敵と見る傾向があるからだ。人格が二つある場合、あたかも一人二役をこなしているように見える。一つの人格はもう一つの人格を押し付けて出ないようにするとスピーゲルは言う。

セラピストは出来るだけ患者の価値観を大事にして、患者に寄り添うようにする。セラピストの役割は、必ずしも他の人格を否定するものではなく、むしろ場合により利用する。敢えてもう一つの人格に現れてもらって、メインの人格の代わりをしてもらう事すらある。

彼等も他の心の病と同じくフラッシュバックを経験し、そんな時は過去の悪い思い出が押し寄せて来る。
「あの場面は見たくない。そんな時は子供の人格を呼び寄せ、慰めてもらうのです」とマーシャルは言う。

「患者は各々の人格を必要としている場合が多いから、セラピストは理解して親切である事が第一です」とペンシルベニア州で精神科を開業するリチャード・クラフトは言う。
「症状が改善して来ると、彼等も多人格にうろたえる事が少なくなります」とマーシャルは言う。




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