扁桃体の連結に問題がある全般性不安障害

2009年12月7日

スタンフォード医科大学の研究によると、恐怖や感情を処理する扁桃体と他の脳領域との連結の不具合が全般性不安障害患者に特徴的であった。この違いが今後各種神経症及び鬱病の成り立ちを調べる上に役立つと期待されている。この研究はthe Archives of General Psychiatry誌に発表された。

従来から扁桃体が神経症発症に関連しているのではないかと考えられているが、今回、スタンフォード大学の研究チームがより詳しく扁桃体と他の脳の連結を調べた。

「脳の微細な連結を調べるのは神経症を研究する上で大変重要だ。各種神経症の原因を調べるには扁桃体の細かい部分の動きに注目する必要がある。この研究は方法論として大変面白い」とデューク大学神経科学のケルビン・ラバーは語る。

アミット・エトキン等は既に精密な解剖学で解明されている扁桃体のある領域に研究を絞った。研究には16人の全般性不安障害の患者と17人の健康な人が招かれ、fMRIと呼ばれる脳スキャン装置を使い、脳の血液流量の変化を調べた。被験者はfMRI装置の中に8分間寝て心を自由に遊ばせながら他の脳の活動変化が扁桃体の各部の血流量にどう影響を及ぼすか調べた。

健康な被験者の場合、扁桃体基底外側核(扁桃体の基部に位地する)が、後頭葉、側頭葉、前頭前野皮質に連結しているのが分かった。これらは視覚、聴覚、記憶、高度の感情と認識を担当する脳である。扁桃体の頂上に位地するCentromedial扁桃体は視床に連結していた。視床は脳幹や小脳から来る情報をコントロールしている。この実験結果は今まで動物実験により分かっていた事実に一致する。

しかし全般性不安障害の人達では別の結果が出た。扁桃体の2つの部分は他の脳の部分に連結はしていたがその情報交換があやふやであった。
「扁桃体基底外側核は本来連結するべき脳部分よりCentromedial扁桃体に連結していた。centromedial扁桃体も本来の連結より扁桃体基底外側核に連結していた」とエトキンは言う。

しかもこの扁桃体の両部分は刺激の重要度を判定する脳領域との連結が弱かった。それは全般性不安障害の人達は漠然とした不安と真の不安をまぜこぜにし易いことを意味している。また扁桃体は皮質実行ネットワークにも連結していた。この部分は感情を抑えて認識する部位である。

「認識に関わる問題が全般性不安障害を起こしていると考えられる」とエトキンは言う。全般性不安障害の人は不安を適度に抑えることが出来ないから、不安を紛らわす目的でしきりに考え込む。短期間なら良いが、長く続くと生活に支障が及ぶ。

この研究では、扁桃体と他の脳部分との連絡に問題があったから全般性不安障害になったのか、全般性不安障害になったから正常な連絡が出来なかったのかは述べていない。しかしこの知見が何時の日か神経症の解明につながるであろう。

「神経学と精神医学が協力することにより今回のよい実験結果に結びついた」とスタンフォード大学のマイケル・グレイシャスは言う。「次のステップは各種神経症と鬱病の研究です。場合によっては扁桃体の連結具合を調べることにより各種神経症の診断が可能になるかも知れない」とエトキンは言う。



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