2016年3月8日 |
何かを取りに行く目的で部屋に入った所、自分が何を取りに来たか忘れる経験は誰でもしているであろう。冷蔵庫を開けたが、冷蔵庫の中を見て、ふと自分が何を探していたか忘れる。あるいは、人との会話を遮って何かを話うとしたが、話す段になって、「えーと、何を言おうとしたんだっけ」と言い、相手は「私に分かるはずがないじゃないか」と言い返す。これを”入り口効果”と言い、この現象から、我々の脳の情報処理の様子が読み取れる。 次の小話からヒントが得られるであろう。ある女性が、工事現場で昼食休憩している作業員に問いかける。「貴方はなんの作業をしているのですか」と一人に聞くと、「レンガを積み上げている」と答える。2番目の人に同じ質問をすると、「壁を作っていると」と言う。3番目の人は「大聖堂を作っている」と言う。 冷蔵庫のドアーを開けて中段をのぞくと、自分が何を探しているかの忘れている。脳がおかしいのではなく、我々の意識が違ったレベル行き来しているために発生している。 この話の意味は、物事をする時は大きな目的を持って臨めという事だ。しかし、成功させるには大きな目的だけでは不十分で、事物に即した働きも必要だ。この場合は、退屈なレンガを積み上げる作業で、この努力なしには、大聖堂も完成しない。 我々の日常では、注意のレベルが常に変化する。目的を考える時もあれば、それを実現するプランも考えるし、具体的にどうするかも考える。物事が順調な時は、目的を考えるだけで充分であるが、話が混み入るとそうは行かない。 例えば、習熟している運転手は、ハンドル、ブレーキ、アクセルを意識しなくても操作出来る。その分、どの道を行けば混まないかを考え、同乗する人との会話も楽しむ。所が、不慣れな地域に入ると、会話を止めて道路の様子を見て、GPSで自分の位置を確かめる。 我々が物事を成し遂げられるのは、注意の階層を上下しながら、時間、場所に適切な行動をするためである。出入り口効果は、我々の注意がこの違った階層の間を上下する時に起きる。直接には記憶の喪失の問題であり、違った環境に入った時に記憶が途切れる。 部屋に入った瞬間に、何のためにこの部屋に来たか忘れたのは、部屋に入る行動により、何を探すと言う目的との接点を失ったためである。物を探すは、これから家を出る、会社に行く、そして家庭のため、社会のため働くと言う大きな目的の一部になっている。 入り口効果を防ぐには、各々の注意の階層に入った瞬間に記憶を維持する必要がある。しかし、部屋に入る直前に、散らかった服を発見したり、会社で今日やる事を思い出したりすると記憶に不連続が発生し、探している物を忘れてしまう。 入り口効果は体と心の環境が変化する時に起きやすい。上の場合は部屋に入る時、職場の事を考えた時であった。簡単な動作でも、前後の文脈が変化する時に起きやすい。注意の階層の上下移動は常日頃行うが、最終目標を忘れず達成しよう。 脳科学ニュース・インデックスへ |