ドーパミン断食

2019年11月18日



ジェームズ・シンカはある日ドーパミン断食を決意した。ドーパミン断食とは外部から入る情報を制限し脳内のドーパミン分泌を抑えて生活を整える修養法で、 主にパソコン、スマホ等を使わない。以外にも、電話を取らない、人との面接も避けると徹底する。

「友人、家族、会社の関係者に、11月17日にドーパミン断食をするから、私の居所が分からなくても驚かないでくださいと連絡した。彼らは笑いながら承諾してくれた」とシリコンバレーのハイテク起業家であるシンカは言う。シンカ24歳はシリコンバレーで今流行の脳健康法であるドーパミン断食をする一人である。

ちょっと辛いがやる価値あり
ドーパミンは神経伝達物質の一つで、やる気に関連していると考えられている。
「幸福神経伝達物質と呼ばれる場合もあるが、正しくない。ドーパミンの分泌は外部からの色々な刺激で分泌されて、特に大きな音のように不意に入る刺激に対応する。また何か報酬が期待できる時にも反応する」とカリフォルニア大学のジョシュア・バークは言う。

ドーパミン断食が発案されたのは、現代人は余りにも沢山の刺激に囲まれている事が一つの理由である。今は、スマホ、パソコンが身の周りにあり、刺激が多すぎる。意図的にこれらの刺激を避けて、脳内のドーパミン総量を減らしたら世の中は新鮮に見えるのではないかと言うのが発案理由である。

毎日スマホを見過ぎる生活は覚醒剤の常習に似ていて、次第に慣れが生じて、脳が物事に反応しなくなるとシンカは言う。
「我々はこの慣れを一度ぶち壊して、もう一度新鮮な気持ちで世の中を見たい。今まで見落としていたものを発見するかも知れない」と彼は言う。

「刺激制限法と呼ばれる、麻薬常習者から麻薬に結び付くものを全て取り去って、彼らの生活を再生しようとする行動療法がある。これにドーパミン断食が似ている」とシリコンバレーで心療内科を開業するカメロン・セパーは言う。彼は企業のトップの心の健康と能力の向上のために、ドーパミン断食的考えを応用している。

「仕事上、彼らは常時ストレスと情報に曝されている。そのままだと感覚がマヒしてくるから、日を限って全ての情報源から彼等を離すことを薦めます。その結果、感情が安定し、集中力が増し、今まで見落としていたものを発見する」とセパーは言う。

シンカの場合は、子供時代に経験した病気が影響している。病気で3日間何も食べなかったが、その後に食べた桃の美味しさが忘れられなく、以来、大学時代から断食を開始して、今は毎月一度はする。
「ドーパミン断食とは私の修養の集大成で、ここからは数々の利益が得られます」とシンカは言う。彼のドーパミン断食は徹底していて、スマホばかりでなく、電光さえも遮り、食事も取らない。

最も難しいのはドーパミン断食をする理由を人に説明する時と言う。
「電話がかかって来ても取らないし出資者にも合わない。これを人に説明するのは結構大変な作業だ」と彼は言う。

流行りかヴィパッサナー瞑想の焼き直しか
でもドーパミン断食に批判的意見もある。
「ドーパミンは必ずしも喜び、幸福と連動していない。ハイテクを断絶して食事も取らなければ、脳内のドーパミンが減るというのは納得いかない。確かにスマホの使い過ぎは良くないし、毎晩のパーティー狂いも良くない。しかしそれとドーパミンは別の話だ。興奮、熱中から頭を冷やすとは、くつろぐ事であり、会社の人と話さないとは別次元の事」とバークは言う。

「ドーパミン断食が脳内のドーパミンを少なくするかどうかは知らないが、でもスマホ類を完全遮断して頭をスッキリ出直すのは悪い事ではない」とケンブリッジ大学のアミー・ミルトンは言う。

ここにヴィパッサナー瞑想と言う、2500年前に遡る仏教瞑想がある。この瞑想では信者に、殺す事、盗み、セックス、嘘、飲酒、人工添加物を含む食事を禁じている。
「イメージを一新して再度商品を売り込むと言うやつでしょう。去年は最小服薬法と言うのがあって、例えばマリワナなら、その量を最小限にすれば仕事にも影響を及ぼさない。1960年代にも流行った考えだ。シリコンバレーと言うと、頭の優秀な人たちの集まりで、彼らが言うと真実のように聞こえる。もし同じ事をデトロイトの自動車会社が言ったら、誰が注目しただろう」とハイテク専門のジャーナリストであるダン・リオンズが言う。

行動を見直す
「彼らは分からないから批判している。私がやっている事はまさしくヴィパッサナー瞑想の21世紀版です。今の世界は余りにも刺激が多すぎる。一歩下がり本来の自分を取り戻すべきだ」とシンカは言う。
「ドーパミン断食なんて言わないで、物事を控えめにすると言えばよい。物事控えめの環境でこそ、真の自分を発揮できる」とミルトンは言う。



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