待つ不安 2006年5月5日
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誰でも病院の検査は嫌なものであるが、例えば大腸内視鏡検査を受ける段になってあまりの心配で検査も出来ない人には良いニュースかも知れない。 今日サイエンス誌に掲載された研究によると、従来の考えとは違い、迫り来る不安は実際起きた時の不安とか恐怖とは関係が無く、むしろ起きたら物凄く恐ろしいと思う注意の集中から来るのが分かった。簡単に言うと、迫り来る不安を和らげるには気を紛らわせば良い事になる。 「迫り来る不安を解決するのに自己催眠が有効と我々は薄々知っていたが、この研究がそれを証明している」とこの研究を指導したエモリー大学精神科医のグレゴリ−・バーンズ氏は言う。 「脳は何か不吉なものを待つ時間のコストを計算しているのだろう。だから待てば待つほど事態は悪化する」とベイラー医科大学の神経科学教授のリード・モンテーグ氏は言う。 だからもし貴方が病室で注射の順番を待っているならば、早い所終わらせた方がよい。 この研究は人間の経済の面にも影響を与えそうだとカーネギー・メロン大学の行動経済学者であるジョージ・ローエンシュタイン氏は言う。人間の経済行動の標準モデルでは、痛みを先に受け入れたいとするのは合理的ではない。もし悪い事が起きそうなら、出来るだけそれを先に延ばそうとする。よい事が起きそうなら今すぐそれを欲しいと思う。 実生活では人はその反対をよく行うと彼は言う。良い知らせは先に延ばし、喜びの感情を堪能しようとするし、不快なものは早い所仕上げて忘れてしまいたい。今回の研究で、待つと言う事が経済の分野でどのような意味になるのか、理解に役立つとジョージ・ローエンシュタイン氏は言う。 実験ではバーンズ氏は32人の人の左足の先端に電気ショックを与えてブレインスキャンを撮影した。一人一人の痛みの耐えられる限度を測定し、96種類の電撃テストの方法を被験者に説明した。96種類の違いとは、どれほどの電圧の電気ショックをどれほど待つかであった。例えば27秒後に耐えられる最高電圧の60%のショックを受けるか、最高電圧の30%のショックを9秒後に受けるかであった。 被験者は待機時間と電圧の色々の組み合わせを選択できる。選択後はその選択した電圧ショックを足の先に受ける。 ブレインスキャナーはショックを受ける前の脳の動きを映し、不安がどう惹起されるかの情報を提供する。 中程度の不安を持つ23人はどの電圧に対しても待つのを嫌がった。しかし早い所終わりにする為に強い電圧を選択はしなかった。酷く不安がる9人の人達は早めにやってくれるなら高い電圧をものともしなかった。不安でじっと待つよりもより苦痛を敢えて受け入れたのだろうと、バーンズ氏は解釈する。 この二つのグループのブレインスキャンの写真を見ると、脳内では1箇所だけに違いが認められた。脳内の痛覚中枢と呼ばれる部分で、ここは注意の中枢でもあるが、強く不安がる人達はこの部分が待機中に活発に活動をしていた。 痛覚中枢は苦痛を経験する時に活発に動く脳の部位で、そこでは体の痛みを感じるばかりでなく、直感、感情、恐怖、注意に関与している部分でもある。強く不安がる人達はそうでない人達に比べて、これから受けるショックに対して注意を集中する傾向があった。取り分け、待つ不安と言うものは不安なものへの注意の集中であり、恐怖とか神経症的不安とは違う。 大腸内視鏡検査を考えて不安がるのは検査そのものではなくて、それを待つ時の不安な時間である。だから自分が不安がりやだと思ったら、気を紛らわすものを見つけるのが一番良いでしょうとバーンズ氏は言う。 脳科学ニュース・インデックスへ |