フロイトの夢分析を現代の科学者は如何解釈するか


1999年11月1日

ジークムントフロイトは多分タバコはタバコと認めるであろう。しかし夢となると夢は単なる夢で無いと頑固に主張するに違いない。夢とは何か、この疑問は心を研究する人々の意見を分けた。フロイドは夢こそ他の方法では計り知れない無意識を知り得る窓であり無意識探査への王道と説いた。しかし最近では夢は単なる眠っている脳からの無作為に出る雑音であるとの反対意見もある。100年前は夢とは鬼火すなわち真実が現れる、あるいは将来を予見する霊魂の一瞥と考えられていた。しかしフロイトは一冊の本でその全てを変えた。

1899年11月4日に出版された「夢の解釈」では夢とは無意識探査の有力武器と再定義した。突然夢は我々心の内部の全く分からない無意識からのメッセージと言う事になった。精神分析家のレオンホフマンは次のように言う。「フロイトの前は夢とは霊魂であり来世の事柄であり来世からのメッセージと考えられていた。夢は宗教や哲学の言葉で語られた。フロイトは自身の研究から我々の心は我々の意識を超越し夢は意味を持つと言った」。

一世紀後の今、科学者は最近の脳映像技術を屈指して果たしてフロイトが正しいかどうかテストしている。脳のどの部分が夢を見ている時に活動して、どの部分が活動してないかを研究している。「この研究は色々な考えが正しいかどうか科学的に検証するのに役立っている。特に再現性を重要視する科学的アプローチは重要である」とニューヨーク市の精神医療家であるエドワードナーセシアン氏は言っている。

フロイトは夢とは深層に横たわる願望でありそれが象徴的に現れたものであると主張する。その目的とは何か。常に内から湧き起こる無意識の衝動が我々を眠りから覚まさせないためであると。「夢は睡眠を守るためにある。これがフロイト理論のエッセンスです」と聖バーソロミュー王立ロンドン医科大学の神経科学者のマークソルムズ氏は言う。

このフロイトの理論は現在殆どの精神分析家に支持されてない。しかしフロイトの「夢は我々が意識でコントロール出来ない無意識から出てくるメッセージ」と言う考えは最近ますます注目されている。「フロイトは無意識がどう言う過程をたどりどのように作用するか迫ろうとした」とハーバード大学の精神家医であるデイビッドウェステン氏は言う。

でも学者はその考えに必ずしも賛成しなかった。1953年にREMと呼ばれる睡眠状態を発見した。REMのl状態では脳は眠っていても起きているのと同じ程活発に活動する。目は目蓋はつぶってはいるがあたかも活発に動き回るスポーツを見ているが如く敏捷に動く。もっとも面白いのはそのREM睡眠の最中に被験者を起すと殆どが夢を見ていたと言う。

この発見からREM状態を夢を見ている状態と科学者は推定した。このREMを起している脳の部位を探すとそれは脳橋と呼ばれる脳幹の原始的部分であり呼吸のような反射運動に関わる部位であり深層の欲望とか希望とか恐怖とは関係がない部分であると分かった。

そこで科学者はフロイト説は間違いであると結論し夢は脳が意味も無く激しく機能しながら作り上げた任意のイメージであり夢の意味は意識と関係があり無意識とは関係が無いとした。しかし最近の研究によるとREMと夢は同じでないと分かった。ソルムズ氏は脳幹に障害がある人をテストした。この人達はREM睡眠は出来ないがしかし夢を見るのが分かった。しかし脳の高位部分に障害がある人は夢を見る事が出来ないがREM睡眠をするのが分かった。

最近の研究ではREM睡眠は必ずしも夢と直結しているので無く睡眠中REM状態で無い時も夢を見ているのが分かった。REMとは夢の引き金にあたると結論した。「REM睡眠は夢を見るには一番良い場所ではあるがREMだけが夢の場所ではない」とボストンのタフツ大学精神医学教授のアーネストハートマン氏は言う。

最近の脳映像技術の進歩によって我々が夢を見ている時に脳の何処の部分が活発に動いているか分かるようになって来た。国立聴力障害研究所のアレンブラウン博士は今陽電子照射断層撮影で睡眠状態の人の脳を調べている。博士の発見がフロイト説が正しいかどうか説明出来るかも知れない。

「我々の映像がフロイト説に一致するかを調べています」と博士は言う。例えば夢の最中には脳の感情をつかさどる場所および感情を伴う記憶をする分野が活発なのが分かる。それは我々の夢が激しく感情に訴えるのがわかる。物を認知する分野と映像を作る分野も活発である。これは我々の夢が強く映像に訴えるのを説明している。

それに引き換えブラウン博士が言う所の実行をつかさどる分野が活動してない。これが夢がしばしば意味不明で道理にかなってなく順序がめちゃくちゃなのを意味している。大体これらの発見はフロイトが言う「夢は無意識からのメッセージ」を支持している。しかしフロイトの予想に反して無意識の象徴を扱う分野は夢の最中は比較的不活発であった。フロイトによれば夢は無意識の象徴の現れでありこの象徴を分析すれば心の深部が解き明かせると説いた。

「夢は意味を持ちます。しかしそれはフロイトが説明するような意味ではないのです」とブラウン博士は言う。博士とその共同研究者は夢の持つ意味はその表面に現れた意味以上のもので無いと考える。すなわちタバコはタバコであると。ハルトマン氏は1930年代に実際にフロイトに会っている。彼も言っているがフロイトは確かに夢を捉えているが必ずしも彼の言う事の全てが正しいわけではない。「皆さんはフロイトが私の頭を撫ぜたと言います。私はその時2歳でフロイトは既に80歳でした」とハルトマン氏は言う。

今日フロイトがハルトマン氏にあったならそんなに優しく対応しなかったであろう。ハルトマン氏は続けて言う「フロイトは物凄く優秀な人でした。しかし私は夢が願望の固まりとは思いません」。ハルトマン氏の理論はもっと現代的で脳とは神経細胞の難解に入り組んだネットワークであり眠りの最中には覚醒時には不可能な神経細胞同士の組み合わせの点検をしてあるいはより広い連携をチェックするのではと氏は考えている。

だから芸術家が夢からインスピレーションを得るとハルトマン氏は続ける。でも経験からも研究からも夢の中には論理的なものは皆無であることが分かる。ものすごく優秀な理論家でも夢の中で計算をしているとか複雑な問題の解答を得る作業している夢を見ることは無い。夢の中では我々は理屈をこねない。もっと空想的な世界を見るとハルトマン氏は言う。


脳科学ニュース・インデックスへ