2023年3月9日 |
10年くらい前に私の摂食障害治療が終わりかけていた頃、セラピストにこの先どう生きたら良いか聞いてみた。治療のおかげで体重も増えたが、摂食障害の特徴である完璧主義は未だ残っていた。これから普通に食べて絶食をせず、吐かない事は可能だろうか。 「ちょっと危ないなと感じたら少し間をおくのです。日記をつけたりクロスワードでもして衝動を抑えたら良い」とセラピストは言った。 ちょっと待ってください。15分から20分耐えれば膨満感とか心のパニックは過ぎ去ると彼女は言うが、彼女自身は吐いたことあるのだろうか。吐いた後の、あの爽快さを経験したことあるだろうか。頭がすっきりするまで絶食したことあるだろうか。日記をつけることは簡単だが、自己破壊にかけては一流の私がそんな事できるか自信がない。 療法のおかげで摂食障害の最も危険な時期を乗り越えても、その改善効果を維持できない。療法終了後、ストレス、悲しみのため、摂食障害の抑制が効かなくなった時は数知れずあった。 こう言うのも、上手く行かないのは自分の側にあるかも知れないと考えたからです。療法を受けた他の女性も同じ経験をしている。療法は終了したが摂食障害の強迫観念は止んでいないのです。 私はジャーナリストであるから、早速摂食障害の治療とその後を調べて、最も上手く行った治療でも再発は70%にも及んでいたのが分かった。私はまだ幸運な方で、マイノリティの社会では摂食障害率は白人のそれより高いと言われているのに、彼らの半分しか診断を受けてないし、当然多くが治療もしていない。 心の病気の中でも摂食障害の死亡率は最も高いと言われている。アメリカ人ではおよそ3000万人の人が生涯で一度は摂食障害を経験して、その内の20%しか治療を受けていない。しかも長期の回復は見込めない。 アメリカ摂食障害協会でさえ、「専門家もまだ摂食障害の治療に詳しく答えられない」と言葉を濁している。また摂食障害研究への予算も少ない。2022年、アメリカ国立衛生研究所は約53億円を摂食障害の研究に当てた。最新の研究によると摂食障害とは神経回路の問題だけでなく、トローマ、ストレス、ダイエットも絡んでいる病気である。 現在、摂食障害に標準治療はない。多くは認知行動療法を実施するが、実際は合意もなく標準もない。すなわち認知行動療法は証拠に基づいた治療ではないと言うことだ。 摂食障害の治療指針は、今の減量ダイエット風潮とは反対方向にある。最近、オゼンピックと言う糖尿病治療薬がソーシャルメディアで評判になっているが、これは適応外の利用でオゼンピックには食欲抑制効果があるため体重減少を目的に飲んでいる。しかしこの薬には膵炎とか視力の低下の副作用があるから要注意です。 一体、完全な回復はあり得るのだろうか。有名な研究者や医者、患者に面接したところ、摂食障害の治療の難しさは、摂食障害そのものが複雑な病気であることから来るらしい。 摂食障害治療には、同じ苦しみをした先輩たちが重要な相談相手になる。未だ10代であるクリスティナ・サフランは、HEALと言う非営利団体を始め、患者に治療を紹介し費用の相談にも乗っている。更にEquip Healthと言うオンラインの治療も開始した。セラピストと栄養士と医師、友達の相談相手、家族の相談相手の5人を患者に用意する。費用が高いから保険も受け付けている。彼女自身もこの治療を受けているが、重要なのは改善状態を維持することで、それには摂食障害を経験した先輩と話すことが大事と言っていた。 教育者であるグロリア・ルーカスは、自分自身の摂食障害の闘いを隠そうともしないが、彼女はNalgona Positivity Prideと言う組織を始めて、白人以外の人々に摂食障害に対する注意の喚起、援助、情報を提供している。マイノリティ社会では摂食障害がしばしば無視されているので、このような運動は重要だ。 私が本を書いているころ、摂食障害の強迫観念が次第に弱くなっていった。それには自分が今、減量ダイエット文化の中にいて、その心理的影響を受けていることが分かったのが大きい。それ故、自分の体に対して拒否的イメージが湧いたら、これは自分の内部から聞こえるのではなく、外部から来るものだと解釈する。 今でも摂食障害からの解放は可能かと問われると、そうだと言える自信がない。でも沢山の同じ悩みを抱える人たちと話して得た結論は、希望を失わないで、良い治療法が今後現れるのを信じようということであった。 脳科学ニュース・インデックスへ |