アインシュタインの奇癖

2017年6月12日

有名な発明家であり物理学者である二コラ・テスラは、足指マッサージをすることで有名であった。具体的にどうするかは不明であるが、毎晩繰り返し足指を片足100回づつすると、伝記著者であるマーク・サイファーは述べている。

20世紀を代表する数学者であるポール・エルドスは、覚醒剤アンフェタミンの中毒であり、20時間に及ぶ数学的考察にはこれが要ると彼は言っている。ある日、友人がアンフェタミン使用をストップ出来るかどうかの500ドルの賭けを提案し、この時は友人が負けた。でも数学の仕事が一か月遅れたとポール・エルドスは文句を言った。

物理学の法則を根本的に変えたニュートンは、生涯童貞であったのは誰も認めるし、彼も独身生活の効用を説いている。一方、テスラも独身であったが、鳩に恋をしたと言う。ピタゴラスは厳格に豆を拒否し、ベンジャミン・フランクリンは素っ裸で空気浴を好んだ。どうも、歴史上有名な科学者に風変りな人が多い。

しかし、この奇癖が彼らの才能の創出を助けていた可能性もある。最近の研究によると、知性は単なる遺伝子の組み合わせではなく、40%は環境にあるとしているからだ。

歴史の中でも天才中の天才と呼ばれるアルバート・アインシュタインは何をしていたのであろうか。彼は相対性理論により、原子に莫大なエネルギーが潜むのを発見しているから、自分の脳にもそれが出来たのか。

10時間の睡眠と1秒のまどろみ
彼は何と一日10時間寝ていたらしい。これは平均的アメリカ人の1.5倍に当たる。最近睡眠は脳の活性化に良いとの研究報告がある。作家のアーサー・スタインベックが「前の晩あれほど考えても解決出来なかった問題が、朝解けていたなんて事が良くある」と言っていた。

アインシュタインは、牛が電気ショックで殺される夢で閃いたと言っている。周期律表、DNAのラセン構造、相対性理論等、人類に貢献した偉大な発見は、ふとした時に思いついている事が多い。

2004年にドイツのリューベック大学で簡単なテストが行われた。学生に数字ゲームに取り組んでもらい、睡眠の効用を調べた。1回目のゲームと2回目のゲームの間には長い休憩があり、一方のグループではその間に睡眠を取り、もう一方のグループでは睡眠を取らなかった。結果は睡眠を取ったグループの成績が2倍ほど良かった。原因は睡眠を取ったグループは、ゲームのルールを気づいていたからである。

我々が睡眠に入ると、脳は90分から120分周期で、浅い睡眠と深い睡眠、そしてREM睡眠と言われる夢を見る睡眠を繰り返す。このREM睡眠が学習と記憶に関係していると言われる。

しかしREM睡眠だけが関係しているのではないらしい。「ノンREM睡眠が睡眠の60%を占めていて、今のところその役割が分かっていない」とオタワ大学神経科学者のスチュアート・フォーゲルは言う。

ノンREM睡眠は、脳波計で測定すると、数秒ずつ数千回現れるスピンドル型脳波に特徴がある。「ここから他の睡眠パターンに移行するのでしょう。良く眠れば眠るほど、このスピンドル型脳波が出ます」とフォーゲルは言う。

脳の深部には視床と呼ばれる楕円形をした構造があり、情報のスイッチの役割をしているが、スピンドル現象はここから発生している。視床に入った情報は選り分けられて、当該の領域に送られる。寝ている時は視床は外部からの情報を遮断して良質な睡眠を保証すると同時に、スピンドル現象を起こして、視床と皮質の間でシグナルのループを形成する。このスピンドル現象が流動的知性に関連しているらしい。流動的知性とは、新しい問題に直面した時に、法則を見つけ理論を組み立て解決する能力で、アインシュタインが最も得意とする所である。

「流動的知性は他の知性とは異なり、推理に特化している」とフォーゲルは言う。普通の大学教育を嫌い、”調べて得られるものは記憶するな”と言うアインシュタインに共通するものがある。

良く眠ればよりスピンドル脳波が出るが、必ずしも長く眠ると難問が解決すると言うものでもない。これは鶏が先か卵が先かの議論で、スピンドル脳波が多く出るから頭が良いのか、頭が良いからスピンドル脳波が出るのかだ。この結論は未だ出ていないが、最近の研究では、推論の能力は女性には夜の熟睡が良く、男性はうたたねが良いと出ている。

スピンドル脳波が何故知性向上に良いか、専門家は脳のある領域が活性化している事実に注目している。「スピンドル脳波を作り出す視床と皮質が知性向上に関連している」とフォーゲルは言う。

アインシュタインもうたた寝の名人で、うたた寝する時はあまり寝すぎないように、ひじ掛け椅子に座って手にスプーンを持ち、下に金属のプレートを置いて、寝入る瞬間にスプーンを落として、スプーンと金属プレートの衝撃音で目が覚める工夫をしたと言うが、これは余りあてにならない情報である。

アインシュタインに取って散歩は絶対で侵すことのできない日課であったので、プリンストン大学でも往復2qの散歩を欠かさなかった。もう一人の天才であるダーウィンも散歩は有名で、45分の散歩を毎日3回した。

散歩は健康促進ばかりではなく、記憶、創造性、問題解決向上に大いに寄与するとの研究がある。歩行とは高級な考えを一時停止して、足を交互に前に踏み出す運動であって、散歩と創造性は関連がないように見える。
”一時的前頭葉活動低下”と言う言葉があるが、一時的に高級な思考を停止し、簡単な運動をすると、普段考え付かなかった良い考えが浮かぶ事はあり得る。脳が違った思考パターンに入るためと説明しているが納得が行く。

食べ物
所で天才は何を食べるのだろうか。アインシュタインが何を食べていたかは分からないが、インターネット上の情報によると、彼はスパゲッティが好きだったらしい。「イタリーと言えば、スパゲッティと数学者のレビ・チビタが頭に浮かぶ」と言っているから、間違いなさそうである。それなら我々もスパゲッティを食べるべきか。

炭水化物は脳活性化にはあまり評判が良くない。脳はエネルギーをがぶ飲みする器官で、うっかりするとグルコースのレベルが下がり燃料切れになる。「そんな時は体はストレスホルモンであるコルチゾルを分泌して、グリコーゲンからグルコースを供給します。しかし、副作用があり、例えば空腹が襲うと頭がくらくらすることがありますが、これが副作用です」とローハンプトン大学の心理学生理学の講師であるリー・ギブソンは言う。

ある研究によると、炭水化物を抑制したダイエットは脳の反応を遅くし、場所認識が低下すると言う。(影響は比較的短期間で、数週間後には脳はタンパク質でそれを代用するようになる)。
糖は脳を活性化するが、必ずしもスパゲッティーを沢山食べる事ではない。「必要量は25gの炭水化物で、スパゲッティ37本分にあたり、その倍だとむしろ脳の活動は低下する」とギブソンは言う。

タバコ
アインシュタインはチェーンスモーカーで知られている。彼がキャンパスを歩くと、パイプの煙が彼を追いかけると揶揄された。また、歩きながら道端のタバコの吸い殻を拾い、パイプに詰めて吸う事で知られている。今日ではタバコの害は十分に証明されているので、決して勧められるものではないが、彼自身、タバコを吸うと心が休まり、物事を客観的に見つめられると言っている。

彼の立場を補強すると、彼の死後7年の1962年まで、タバコの健康に対する害は無視されていた。今日ではタバコの害は明白で、脳細胞の再生も妨害するし、脳内の酸素をも枯渇させると分かっている。アインシュタインはタバコにより頭が良かったと言うより、タバコの害を跳ねつける程頭が良かったと言うべきであろう。

ここに最後の不可解な謎がある。アメリカ人の青少年20,000人を15年に渡って調べた所によると、年齢、人種、教育程度に関係なく、知能の高い子はより大人になってタバコを吸う傾向が高い。しかし、これはどうもアメリカの現象であってイギリスでは違うらしく、喫煙者のIQは一般より低いとデーターは出ている。

靴下を履かない
アインシュタインも奇癖に事欠かない人であるが、彼の靴下嫌いは特筆すべきものだろう。「靴下を履くと直ぐ親指の所に穴が開く。あれが嫌で、若いころから靴下を履かない」と後に妻になるエルザに言っている。

晩年は自分のサンダルが見つからないと、妻の女性用のサンダルを履いていた。奇抜な恰好が彼の相対性理論創造に役立ったのだろうか。靴下を履かない効果については分からないが、くだけた服装が抽象的思考を困難にさせると言う報告はある。

最後に彼自身からのアドバイス。
「疑問を持ち続けるのが最も大事です。疑問はそれ自身に意味がある」と1955年ライフ・マガジンに語っている。疑問に欠けると感じたら足指マッサージはどうか。結構いけるかも知れない。



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