電気痙攣療法

2021年9月14日
ニューヨークタイムズ
Health
By Nicholas Bakalar


最近の発表によると、電気痙攣療法は難治性鬱の治療には効果的であり、抗鬱剤、心理療法を受けるのと同じくらい安全であるという。

過去には電気ショック療法と言われていて、批判された過去を持つ。特に映画”カッコーの巣の上で”が与えた心理的影響は甚大で、実際にあの頃は療法の実施に強い電流が流され麻酔処置もしていなかった。

現在の電気痙攣療法は全身麻酔下で行われ、120ボルト、0.8アンペアの電流を1秒から6秒与える。麻酔下なので筋肉の収縮はない。脳内に生じた発作は鬱の症状を軽減し他の心の症状も軽減する。一般に患者は数日から数週間の間にこの療法数度受ける。

痛みを伴うのは麻酔前に静脈ラインを挿入する時だけで、その他には、一時的記憶喪失、混乱、一過性の頭痛がある。
電気痙攣療法が長期的記憶喪失を起こすかどうかについては議論が分かれている。何故なら鬱そのものも記憶喪失を起こすからである。

Lancet Psychiatry誌に発表されたこの研究では、10,016人の患者の記録を調べている。鬱が強く、3日以上病院に入院した患者を対象として、患者の半数は電気痙攣療法を受けて、他の半分は抗鬱剤と心理療法だけを受けている。3分の2は女性で平均年齢は57歳であった。研究では退院した後の全患者の回復具合を調べた。

比較には社会人口学的特性、投薬の種類、他の病気があるかないか、行動、認識の状態、心理ケアーを含む健康サービスの有無等を考慮した。このような厳密な比較により、過去の研究より重みを増している。
その結果、電気痙攣療法には循環器、呼吸器、泌尿生殖器に及ぼす重大な副作用はなかった。

退院後の30日間で、105人の電気痙攣療法を受けた患者に重大な医学問題が発生していたが、電気痙攣療法を受けてないグループでも135人あり、統計的にそれ程意味のある違いではなかった。なお、外来で済む簡単な病気は統計に入れてない。自殺に至ったケースは少なかったが、電気痙攣療法を受けたグループではより少なかった。

「研究は良く出来ている。電気痙攣療法は今まで散々叩かれて来たから、最新の調査が欲しかった」とコペンハーゲン大学のマーチン・ヨルゲンセンは言う。

デューク大学で電気痙攣療法を実施しているジェーコブ・フィーガルも、発表は電気痙攣療法の副作用を心配する患者に役立つという。
「臨床医として、重症の鬱の患者の人が、その状態のままであるマイナスと療法実施した時の利益を考えてもらうのに役立つ」と彼は言う。

ヨルゲンセンは、「電気痙攣療法が及ぼす副作用はそれほど心配する必要がないが、電気痙攣療法を受ける前後の記憶は喪失する」と言う。

「電気痙攣療法は安全な治療法で、何千もの人が試していて、殆ど問題が起きてない」とジョーン・ホプキンス大学のアービン・レチは言う。

トロント大学のタイラー・カスターは、「電気痙攣療法にも多少のリスクがある。しかし、鬱病を放置しておくと、心臓血管の病気、痴呆、薬物依存症、自殺と言う他の深刻な問題が生じる」と言う。

「電気痙攣療法を受けるにはかなりの決心が必要だ。この研究は患者、家族、医師に決意を促す一助になるだろう」とカスターは言う。



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