エピジェネティック・マーク

2014年9月18日

環境から受けるストレスの影響で、遺伝子表現が変わり、これが親から子へ伝わると言うエピジェネティックス遺伝が、次第に具体性を帯びてきた。エピジェネティックスとはDNAの文字配列変化による遺伝ではなく、DNAがどのように包まれるか、その梱包の仕方が変わることによる遺伝だ。

今回、カリフォルニア大学サンタクルーズ校が、エピジェネティックによる細胞から細胞への遺伝、親から子への遺伝について発表した。9月19日号のサイエンス誌に発表されたこの研究では、DNAを包むタンパクである、ヒストンH3のメチル化に焦点を当てている。今までの研究で、ヒストンH3にある、アミノ酸のリシン27をメチル化すると、遺伝子のスイッチがオフになることが知られている。このアミノ酸のメチル化をエピジェネティックマークと呼び、人間から回虫まで動物の全てに見られる現象であるが、研究では動物の中でもC. elegansと呼ばれる回虫を使って実験した。

「メチル化マークが細胞分裂で継承されるか、世代を超えて継承されるかが重要なのです」とカリフォルニア大学分子細胞発生生物学教授であるスーザン・ストロームは言う。

ストローム研究室は、メチル化マークに必要な酵素を欠く、遺伝子変異のある回虫を作成し、これを普通の回虫と交配させた。蛍光ラベルの技術により、卵細胞、精子、受精後の胎児の分裂細胞まで、メチル化マークを顕微鏡下で追跡できる。

変異卵細胞に正常の精子を掛け合わせた胎児は、精子由来の6つのメチル化した染色体と、卵細胞由来の6つのマークのない”裸”染色体を持つ。

胎児が成長する時、細胞はその染色体を複製し分裂をするが、複製分裂後の2つの娘細胞に、メチル化マークがはっきり認められた。しかし、卵細胞にはメチル化酵素がないから、細胞分裂するたびにマークは次第に消えて行った。

「メチル化マークは最初の染色体にははっきり見られたが、その娘細胞になると少しぼやけ、4細胞になるとぼんやりして、24から48細胞になる頃には消滅していた」とストロームは言う。

ここで、正常な卵細胞に、変異した精子を掛け合わせる逆の実験をした。この実験では、メチル化酵素 (PRC2)は卵細胞中に存在するが、精子にはない。胎児細胞には6個の裸染色体(精子由来)とマーク付きの6個の染色体(卵細胞由来)が存在する。

「分裂する細胞を観察すると驚いたことに、マークのある染色体はそのままマークを維持し、裸染色体は裸のままであった。これはマークが遺伝されたことを意味する」とストロームは言う。

実験では回虫を使ったが、実験結果は他の動物にも重大な意味を持つとストロームは言う。何故なら、全ての動物は、同じ酵素を使ってヒストン・タンパクのメチル化をしているからだ。

この研究成果を聞いて、同じエピジェネティックスを研究している彼女の同僚は、興奮しているとストロームは言う。

「今までに、有力なエピジェネティック・マーカーが数十個発見されているが、まだ分からないことが多い。親から子供に伝わるエピジェネティックについては、未知の分野です。これから分子レベルで解き明かす分けですが、我々の研究が、そのパズルの一つを発見したことになるでしょう」と彼女は言う。



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