即効性の躁状態治療薬の研究

2008年 1月23日

即効性の躁鬱病の躁状態改善薬の可能性が新しい研究で報告された。

現在使われている薬は効果が出るまでに数日から数週間かかるが、その間躁状態になった患者は衝動的行動や買い物をしてしまう。躁鬱病は18歳以上のアメリカ人では570万人が苦しんでいる。

即効性の薬は従来の薬のリチウムやバルプロエートが作用する脳神経細胞上の分子サイトに同じく作用するが、より直接的に迫るように作られている。現状の薬は回り道で作用するため、効果が出るまでに時間がかかる。たんぱく質の断片を使った実験ではそれを分子サイトに働かせるとラットの脳の変化を抑制し躁状態を和らげた。この報告は、1月2日付けのThe Journal of Neuroscience誌に、ジン・ドゥ氏とフセイニ・マンジ氏等により発表された。

取り上げられた分子サイトは、AMPA受容体のGluR1サブユニットの中にあるS845と呼ばれるセリンアミノ酸である。このサイトを更に研究すれば新しい薬の開発につながる可能性があるし、別のサイトにも可能性が広がる。

受容体の科学
研究では、受容体の中にあるS845と呼ばれるアミノ酸にたんぱく質の断片を作用させた。S845はAMPAと呼ばれる受容体を構成するサブユニットの一つである。AMPA受容体はたんぱく質で神経細胞の上あるいは中に存在し、神経伝達物質を受け取ると電気を発生し他の神経細胞と交信する。AMPA受容体はグルタミン酸エステル神経系の一部で、躁状態では活動が過剰になっていると考えられている。現在使われている薬はこの神経系の活動を抑制するらしい。

場所、場所、場所
AMPA受容体を構成するサブユニットであるGluR1はその中でも特に重要な働きをしていると今回の研究では言う。AMPA受容体を生産するには、GluR1と他のサブユニットが決められた時間に決められた場所にいる必要がある。

正常な環境ではこれらサブユニットは細胞内で化学反応により場所を急激に移動する。現在使われている薬もサブユニットと受容体の位置を変化させて症状を和らげる。例えば神経細胞の表面にあるGluR1サブユニットの過剰なレベルを低減させて症状を軽減させている。

しかし今までの薬はこのプロセスを踏むのに時間がかかった。理由は薬が攻撃する分子サイトから更に重要なサイトに影響が及ぶのに数日から数週間かかると見られているからである。

一連の研究からGluR1を組み立てるS845が重要なターゲットに浮かび上がった。S845を攻撃するとGluR1と同じくAMPA受容体サブユニットであるGluR2の場所をも変化させた。ラットを使った実験では、アンフェタミンを与えられて躁状態になったラットの行動を正常化させている。

何故S845か
GluR1サブユニットのS845に注目されている理由は、現在の薬も最終的にこの場所に作用していると見ているからである。このサイトはGluR1サブユニットに対してスイッチオンをする役目をする。リン酸塩分子がS845に結びつくとGluR1は活動を活発にする。AMPA受容体を増産し、AMPA受容体を細胞の表面に押し出す。AMPA受容体が細胞の表面に出ると細胞同士が過剰に反応し、これが躁状態を起こしていると考えられている。使用されたあるたんぱく質の断片は、S845にリン酸塩分子が結合するのを抑制した。



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