恐怖を学習する遺伝子の発見

2002年12月15日
          
ネズミの実験から恐怖を学習する上で重要な役割をする遺伝子が発見され、重大な心の病を解決する手掛かりになりそうだ。

ハワード・ヒューズ医学研究所の研究者は恐怖を学習する遺伝子を発見したと伝えた。

学習恐怖とは生まれた時から備わる本能的恐怖とは違うが、人間も動物も繰り返し経験する事によりあるものが危険あるいは脅威である事を学ぶ。

実験ではGRPと呼ばれる遺伝子があるネズミのグループと、その遺伝子を欠くネズミのグループを使って実験した。GRP遺伝子とは動物の感情中枢である扁桃体に作用して、恐怖を学習する回路を妨害すると考えられている。

ネズミはある特殊な音と同時に電気ショックを受けて恐怖を学習させられる。又、音に対してどれほど恐怖するかも測定される。

GRP遺伝子を持たないネズミは持つネズミより強く長く恐怖に反応する事が分かった。しかし生まれながらにして持つ本能的恐怖とか痛みに対しては何等普通のネズミと変わらなかった。

「この実験では従来心理学的に説明されていた”本能的恐怖は学習された不安とは違うのでは無いか”との説を裏付ける事になった」と研究員の1人であるエリック・カンデル氏は言う。

理論的にはこの実験が神経症の原因究明に役立つはずである。あるいは薬の開発につながるかも知れない。

「GRP遺伝子は恐怖を弱める働きをするので、神経症を治す全く新しいアプローチとしてペプチド(アミノ酸と蛋白質の中間物質)を活性化させる薬が考えられるかも知れない。まだ余り可能性を言うべきでは無いですが、この実験結果から動物に重大な精神障害モデルを作成して恐怖の学習を研究出来そうです。既に恐怖の学習には脳の幾つかの部分が関わっているのが分かっています。この実験により、恐怖を学習するプロセスには遺伝子と生化学的メカニズムが絡んでいる事が判明しました」とカンデル氏は言う。



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