脳の電流刺激

2019年5月14日


最近は、脳を電流で刺激して活性化する研究が進んで、アマゾンで売っている天才帽子を被って脳を良くする話も、まんざら冗談ではなくなって来た。

先月は、頭皮を電流で刺激して老人の作動記憶を向上する報告があった。脳に障害を負った女性に、電極を埋め込んで認識力を向上させたの報告もある。また、アメリカ食品医薬品局も、スマホ位の大きさの機器で、おでこに張り付けたパッチに電流を流し、注意欠陥障害を改善する装置を認可している。

社会では電極を頭皮にあてて脳機能改善を試みる人が増えて来た。一体この傾向が何時まで続くか分からないが、一つ言えるのは、天才帽をかぶったところで天才になれないし、脳に電極を通す手術をしてもどれほど効果が期待出来るか、副作用はどの程度か誰も分からない。
にも関わらず、この分野の発展を無視できないのは、抗鬱剤や心理療法と違って、電流、電磁波は脳の基本動作に影響して人の行動を瞬間的に変えるからだ。

脳がまだ秘密のベールに覆われるなか、最新の脳科学を隠喩で例えるのはどうであろうか。脳をオーケストラと見れば、健康な脳とはモーツアルトの曲のように脳全体が心地よく共鳴している状態と言って良い。
「指揮とは、各楽器間の連携を確かめ、楽員を誘導し、調子を合わせ、彼らの演奏の修正する役割です」とロスアンゼルスオペラの音楽監督であり、イタリアトリノのRAI国立オーケストラの指揮者であるジェームズ・コンロン氏は言う。

脳科学の研究者もよく、脳をシンフォニーに例える。「オーケストラの楽員を見ると、曲が始まると、楽員は指揮者を見ると同時に楽員間の連携も確かめている。脳でも、近くの脳細胞同士が会話をしている。問題は脳には指揮者がいるかどうかです」とカリフォルニア大学のマイケル・ガザニガは言う。

荒っぽい療法に電気ショック療法がある。これは電流で脳に痙攣を引き起す療法で、既に過去100年も実施されていて、重度の鬱状態の人には一定の効果があると言われている。電気ショック療法はオーケストラで言えば、楽員に演奏を止めてもらって家に帰り、明日また演奏してもらう見たいなもので問題も多い。

脳の患部に狙いを絞る療法に、脳深部刺激療法がある。これは電極を脳に差し込み問題を起こしている患部の活動を停止させるやり方で、パーキンソン病や癲癇の治療に応用されている。
「オーケストラの一部が調子はずれた音を出すと、全体に影響してオーケストラの音は崩れる。脳も一部が調子を外したシグナルを出すと、脳全体に影響する。脳深部刺激療法とは、調子を外した部分の活動を一時停止させる療法で、問題を起こしている部分だけを攻撃する精度が要求される」とシナイ医科大学のヘレン・メイバーグは言う。

脳では離れた脳細胞の会話は低周波シータ波で行われる。ボストン大学では、シータ波で前頭葉と側頭葉間の会話の活発化を試みて、老人の作動記憶が向上したとしている。
別の研究では、18年前の交通事故で後遺症に苦しんでいる女性の脳に2本の電極を埋め込み、視床を電流で刺激した。その結果、だるさ、集中力の欠如、ぼんやりの症状が軽減した。視床は脳の情報の交換台と言われているから、ここを刺激するのは、指揮者が直接楽員に話しかけるのに近い。

脳を電流で刺激する療法をオーケストラで説明したが、脳が未だ未知の領域で、しかもハイテク療法がどんどん現れる現在、隠喩を使わざるを得ない。



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