賭博依存症と脳内化学物質


1999年4月19日

デイビッド・カミング博士(at the City of Hope National Medical Center in Duarte, Calif.,)によれば人をギャンブル狂にする遺伝子があるらしい。

博士は先ず人間のセックスとか食事行動は脳内にある報酬回路と密接に結びついているのではないかと考えている。人間が食事をしたりセックスをすると例えばドーパミンと呼ばれる快感を与える神経伝達物質が分泌されます。その報酬が更に食べたりセックスをさせるわけです。科学者はドーパミンとかそれに類する物質がコカイン中毒に関係していると認めている。カミング博士はドーパミンや報酬回路が果たして病的ギャンブラーと関わりがあるかを調べている。

博士は報酬回路に関わる遺伝子即ちドーパミン受容体を作る細胞を助ける遺伝子に注目した。ドーパミン受容体とは脳細胞の表面にある蛋白質でドーパミンと相互に関連しあう物質である。ドーパミンが受容体に入ると脳は快感を受ける。博士の研究によれば病的ギャンブラーはドーパミン受容体遺伝子の一つを50%の割合で持ち一般の人は25%の確立でその遺伝子を持つと言う。

この遺伝子を持つとドーパミンによる満足感が不足するし慢性的なドーパミン不足に見舞われる。そのためギャンブラーは普通の刺激では満足できないのであろうと博士は述べている。このドーパミン不足を補う為にドーパミンを強く出す行動に出る。この欲求が人を繰返し博打に誘うと博士は考える。

面白いのはギャンブラーは博打をする時に出きる天然の化学物質に中毒になっているらしい。博打は長い間中毒の代名詞になっていた。ドーパミンだけが脳に幸福感をもたらす化学物質ではなくセロトニンとかエンドルフィンをコントロールする遺伝子も賭博癖に関与していると博士は言う。

もちろん遺伝子だけがある人を賭博癖にするものではない。専門家は例えば家族の死などがもともと賭博にのめり込み易い人を更にそれに追い込む可能性を指摘している。もちろん重度の博打中毒の人もかなりコントロールを回復する可能性もあるがしばしばその病気が本人の判断を狂わせる。

ニューメキシコ大学のロバート・サザランド博士は何故しばしばギャンブラーは間違った判断をするのか調べている。博士は脳のある部位に損傷がある患者が物事を決定する時に間違ってしまう事実から研究を始めている。損傷を持った人は何をしたいか説明出来るが系統だってまとめることが出来ない。最後には衝動的に何かを決めてしまう。

サザランド博士はギャンブル依存症の人のドーパミン受容体が多く見られる脳の部位に果たして微妙な異常が見られるかどうかを調べている。その為に博士は依存症の人と健康な人をコンピュータースクリーン上に示されたトランプゲームをしてもらいテストをした。参加者は4組のトランプカードの組み合わせから選ぶ事が出きる。その内の二組みは報酬も大きいが負けると損失も大きい。この高い賞金の組みを常に選ぶ人は必ず損をする事になる。サザランド氏によれば誰も勝てないと言っている。

それに比べて他の二組を選ぶ人達は儲けも少ないが大体とんとんに終わる。以前の研究では脳に障害を持っている人はこの危険な組みを選ぶ癖がある。博士の予備試験では衝動的なギャンブラーは賞金の大きい組みを好む傾向がある。結果的に大負けするのだが。ギャンブラーで無い人は安全な組みを選ぶ。彼等は危険を避ける為にそうすると言っている。

サザランドはギャンブラーは前頭葉前部腹側部(Ventral prefrontal cortex)に問題がありと見ている。そこは感情(直感)で判断し理性的に組み立てる脳の部位である。彼はギャンブラーは自分では理性的に判断出きると言うが実際にはその決断の真っ最中には的確な選択が出来ないのではないかと疑っている。たぶん彼等は前に成功した時に出たドーパミンに過度に影響されているらしい。

ギャンブラーの選択と脳の関連性を調べる為に博士はイメージテクニークを使ってトランプゲームの最中に脳の何処がもっとも活発に動いているか発見しようとしている。この技術が前頭葉前部の異常を示すのではないかと博士は考えているが未だ発見されていない。



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