鬱病には遺伝子スイッチが関連2012年9月10日 |
ある種の遺伝子が、鬱病の発症の原因であるのが研究で分かり、鬱病を治す新しい薬の開発への道が開けて来た。 鬱病の患者は、鬱状態、無気力、喪失感、記憶の喪失等に苦しむ。この症状が数週間以上続くため、患者の生活は大変困難になる。 今までの研究から、鬱病では脳そのものが健康な脳と違っているのが分かっていた。鬱病の脳では、前頭前野皮質と言う高度の判断をつかさどり、感情にも大いに関与している部分が小さく、神経細胞の数も少なくなっているが分かっている。 今回の研究ではイェール大学のロナルド・デューマン等の研究チームは、前回得られた研究データーを使って鬱病脳の実際の動きを研究した。健康な人の死後の脳と、鬱病患者の死後の脳をそれぞれ15人分比較した。15人はできるだけ年齢、人種、性別を同じくしている。 DNAマイクロアレー・チップと呼ばれる技法で、20,000種類の遺伝子を分析したところ、鬱病の脳では多くの遺伝子の表現(スイッチがオンオフする)が健康な脳とは違っていた。 ニューロンからニューロンに信号が伝達される部位であるシナプスに働く遺伝子では、鬱病の脳では30%ほど健康脳に比べて表現が抑制されていた。前頭前野皮質では5つの遺伝子の表現が強く抑制されていた。 そこで、前頭前野皮質の5つの遺伝子の表現に影響する転写要素と言うものを調べた。転写要素とは蛋白で、他の数種類の遺伝子のスイッチをオン・オフするDNAに接続している。その結果、GATA1と呼ばれる遺伝子が鬱病の脳ではかなり強く表現されているのが分かった。ねずみを使った実験でも、ねずみの前頭前野皮質でGATA1遺伝子の表現が強かった。 ねずみの培養神経細胞を使った実験では、GATA1遺伝子の表現を強化すると、シナプス関連遺伝子の表現が抑制され、シナプスの数も減少した。これはGATA1遺伝子の強い表現が鬱病を発症させていることを意味している。次にねずみの脳にGATA1遺伝子のコピーを植えつけたところ、ねずみが鬱病の症状を示し始めた。 「たった一つの転写要素が活性化しただけで、感情や認知の回路に障害が生じるのが分かった。シナプスの連結具合を向上させる薬が鬱病を予防する可能性があり、新薬の開発を期待している」とデューマンは言う。 脳科学ニュース・インデックスへ |