グラクソ・スミス・クライン社の悪行

2012年7月5日

アメリカ司法省は7月2日、グラクソ・スミス・クライン社に対して、認可された範囲を超えて同社の薬を販売したことや、食品薬品局に薬の安全情報を告示しなかったことを有罪と判定し、同社に2,400億円の支払いを命じた。

判決では、抗鬱剤パクシルおよびウェルブツリンの違法販売と、糖尿病薬アバンディアの心臓への副作用の隠蔽で有罪としている。グラクソ・スミス・クライン社は刑事罰として800億円を支払い、アドベア等の違法宣伝販売行為に対する民事罰として1600億円を支払う。

罰金額が決定した去年11月の時点で、同社は既に2,400億円を用意していた。額は巨大ではあるが、問題の薬品を販売して得た利益の総額を考えるとその一部でしかない。ウォールストリートジャーナルによれば、検察はグラクソ社が薬の違法販売(オフ・ラベル・マーケティングと呼ばれていて薬に許されている範囲を超えて販売あるいは処方する行為)でどれほど利益を得たかはつかんでいない。しかし利益は相当なもので、ニューヨークタイムズも罰金はその一部と報じている。

今回の裁判所の判決が対象とする年度内で、同社はアバンディアを8,000億円、パクシルを9,300億円、ウェルブツリンを5,400億円を売り上げていて、総額2兆2,700億円の売り上げになる。(製薬メーカー・コンサルタント会社IMS Healthによる調査)
「これほど売っているのだから、6種類の薬を10年以上違法販売して得た利益は巨大で、2,400億円は販売経費くらいであろう」と告発者グループのスポークスマンであるパトリック・バーン氏は言う。

今回の判決は、1990年代の後半から2000年代の半ばまでの違法行為に対して下された。4人の元グラクソ社員の告発によると、医師を豪華温泉旅行へ招待して、若年層への処方、適用外の症状に対する処方を頼んでおり、パクシルの場合は医師に医学雑誌に実際とは違った臨床試験データを発表するように迫っていた。パクシルは18歳以下の子供に処方するのは禁止されているが、グラクソ社は医師や販売会社にキックバックを約束して販売、処方を薦めていた。

政府は2002年に調査を開始した時点で、パクシル等の抗鬱剤は子供の鬱に対しては偽薬程度の効果しかないのが分かっていた。実際、グラクソ社自身が1994年から2001年までに3回、18歳以下の子供の鬱病患者にテストをして、3回とも政府の基準に合格しなかった。

”研究329”と呼ばれる臨床試験では、パクシルを飲んだ患者93人のうち10人が自殺未遂しているのに対して、 偽薬を飲んだ患者では87人中わずか一人の自殺未遂しか出ていなかった。にも関わらず、グラクソ社は専門会社を使ってパクシルの危険性を否定する医学報告を用意させ、データを捏造して安全性を強調する試験結果をでっち上げ、2001年に子供の鬱治療に有効として発表した。

検察は、グラクソ社の販売幹部がこの報告書を利用して子供の鬱治療にパクシルを使うように販売促進活動をしていたと批判している。グラクソ社は”パクシル・フォーラム”と称して、精神科医を豪華なリゾートホテル、高価な食事、ヨット遊び、気球乗りに接待していた。

2003年ごろから、パクシルを飲んだ10代の若者から自殺者がぽつぽつ出始めていた。一方、食品医薬品局も”研究329”を読み事実を把握していた。2004年に政府は、グラクソ・スミス・クライン社に対してパクシルを販売する場合、10代の患者には自殺リスクがある由の警告を添付するように命令した。

ウェルブツリン
グラクソ・スミス・クライン社は広報の専門会社を使い、医師には豪華な接待をして、ウェルブツリンを抗鬱剤としてばかりでなく、体重減少、勃起不全、薬物依存、注意欠陥多動障害の治療に使うよう薦めた。実際はウェルブツリンは抗鬱剤以外の治療には認められていない。告発グループの弁護士を勤めるタビー・デミング氏は、2000年にラスベガスで催された地域販売者会議で、グラクソは販売代理店に、ウェルブツリンは人を幸せにし、セックス好きにし、体重を減らす薬と宣伝するように指導していたと言う。

ウェルブツリンの販売に尽力してグラクソから報酬をもらっていた医師には、有名なドゥリュー・ピンスキーがいる。彼の名前は法廷に提出された文章に記載されていて、見返りとして2,200万円支払われた。
司法省によれば、ドゥリュー・ピンスキーは1999年にウェルブツリンのありもしない効能を激賞し、報酬として2回現金を受けていたと、ニューヨーク・デイリーニュースは報じている。
グラクソの社員には、ウェルブツリンの違法販売に成功すると、会社からボーナスが支給されていた。反対に失敗して、医師からキックバック受け取りを拒否された社員などは罰として休暇を出された。

アバンディア
グラクソ社は、政府にベストセラーである糖尿病治療薬アバンディアの心臓への副作用を7年間報告しなかった。2007年、クリーブランド・クリニックの心臓専門家であるスチーブ・ニッセン氏は雑誌”the New England Journal of Medicine ”で、アバンディアが2型糖尿病で心臓発作リスクを40%以上高めた発表している。政府が認可する際に判断の基準となったデータは操作されたものであり、糖尿病患者の心臓に対するリスクを過小評価したものであったのは、かなり前から分かっていた。

ニッセンの分析したデーターは、メーカーが行ったテストのうち、報告されなかった部分である。ニッセンが報告した頃には、既に薬品は大ベストセラーになっていて数千億円を稼いでいた。当然莫大な数の患者が服用していて、心臓に及ぼす影響は明らかになっていた。そこでグラクソは2005年と2006年にデータを見なおす作業をした。内部の調査では、タイプU糖尿病での心臓リスクは29%および31%と出ていた。2006年にグラクソは政府にデータを提出したが、それは2006年末までに行われた15回のテストの内の一部でしかなかった。

食品薬品局はこの情報を直ぐ一般に公表せず、代わりに統計専門家に得られた新しい情報を再検討するように命じていた。そのため、一般の人たちは事実を知らされず服用し、グラクソは心臓リスクを隠したままセールスにまい進した。

パクシルの自殺リスクを公表しなかった問題については、ニューヨーク市との和解の一環として、すべての臨床テスト結果をグラクソ・ホームページに掲載することにグラクソは同意した。ニッセンはその内のアバンディアのテスト42件分をダウンロードして、その分析報告を2007年5月にニューイングランド・ジャーナル誌に提出した。

2007年ヨーロッパの医薬品庁は、代わる薬品が既に存在していること、アバンディアの血糖値改善効果に疑いがあること等で、アバンディアの販売を禁止した

アメリカ食品薬品局の諮問会議は、2010年にアバンディアの販売許可を取り消すかどうか採決したが、厳密な条件の下で販売を許可した。処方するには、まず医師が認可を受けていること、以前に患者が同薬品を使って問題がなかったこと、患者が心臓リスクを知っていること、他の薬品では血糖値コントロールが上手く行かないこと等を条件とした。

ニッセンの言葉によれば、今、ようやく10年越しの悪夢が終わろうとしている。



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