孤独の薦め

2018年2月28日

私はどちらかと言えば付き合いに億劫を感じるタイプで、時々会合が延期されたりするとほっとする。会合に参加すると数時間不安を感じるからだ。一度10日間の瞑想の旅に出たことがあったが、それは瞑想をするのでなく、単に人から離れて静かな時を過ごしたかったからだ。

”一人のパーティー”を書いた作家のアネリー・ルファスも私に似ているらしい。彼は「テレビドラマで、親が子供に自分の部屋に行きなさいと命令する場面があるが、私には理解できない。自分の部屋に行けと言われれば喜んで行く。むしろ、従弟のルーイスとサイコロゲームをやる方が苦痛だ」と述べている。

一般に人を避けるのは良くないと言われている。英国王立医師会も、人との関わりは認知機能維持、免疫維持に欠かせないし、孤独は糖尿病と同じくらい危険であると言っているが、これは本当だろうか。
確かに 病的な孤独は人をダメにする。虐待された子供、独房に長い事閉じ込められていた囚人には精神的障害が残る。しかし、 自分で選ぶ孤独生活は、精神的健康を保つのに有効と最近の研究では言っている。

創造力を高める
孤独の良い面は創作力の活性化である。カリフォルニア・サンノゼ大学で創造性を研究しているグレゴリー・フィーストは、創造性を2つに要約している。一つは独創性であり、もう一つは社会に役に立つ事である。独創性のある人には開放、自信、独立が見られると言う。開放性は新しい考えを受け入れる柔軟性であり、自信は自分の能力に対する確信であり、独立とは社会の常識に捕らわれず独立独歩を行く事である。フィーストは、傑出した芸術家、科学者には、付き合いを避ける傾向があると言う。

多くの芸術家は、内側の世界に籠って仕事をしているがそれには理由がある。人付き合いを少なくすれば、その分、時間を仕事に投入し神経を集中することが出来るとフィーストは言う。
バッファロー大学心理学のジュリー・ボウカーは引きこもりを研究していて、引きこもりには3つのタイプがあると言う。恐怖、不安から引きこもるタイプ、付き合いを鬱陶しく思うタイプ、仕事のために敢えて孤独を愛するタイプに分けられる。ボウカーは、傑出した創造性は第三の孤独のタイプから生まれると言う。

内観の重要性
グループを率いるリーダーの特質は社交的であると考えたいが、それも部下の気質にもよる。 2011年の報告によると、受け身で内向的店員が多い ピザ・チェインのお店では、外向的ボスの方が良い成績を上げたが、部下が積極的なお店では、内向的ボスが良かった。その理由として、内向的な人は外向的なリーダーのいう事を素直に聞く傾向があるからだ。

大昔からインド・ヒマラヤでは悟りを得るために人は下界を断絶して瞑想をした。
人との関係を断ち瞑想する状態は、精神の積極的停止にあたり、心は流浪し、白昼夢と言う現象も起きる。この時記憶が固定され、心は柔軟になり、人生の全般を見通す余裕が出来る。

「静寂」と言う本の著者にスーザン・ケインと言う女性がいる。彼女は積極的に孤独の良さを薦め、内向的な人達に働きやすい職場づくりを進めている。
「創造はグループ活動から生まれると考えたいが、実際は心を集中する必要がある。人間は社会的動物であるから他人から影響を受けやすい。しかし良い仕事をするには、自分を隔絶して熟考する時間も必要だ」と彼女は言う。

隠遁との違い
世の中には良い孤独と悪い孤独がある。悪い孤独をすると生活機能を失ってしまう。もし他人に興味を失い、自分に籠り始めたらこれは病気であるが、何か良い仕事をしようとして意図的に孤独になるのは良い孤独である。

「むしろ一人になれない、何時も人と一緒にいないと不安と感じるなら、それは孤独と反対の意味で危険だ」とフィーストは言う。一人になる時間がなかったら、自分の内側を見る時間もなくなる。友人の数は少なくても、より強い関係を築く事が出来れば幸せな人生であろう。友達の数が問題なのではなくて、その質である。絶え間なく誰かと話していて、人生が豊かになるはずがない。

だから、もし貴方が会合に行くのが億劫に感じても恥ずべき事ではない。嫌なものに無理に合わせるより、間口を狭めて人生の生産性を高めた方が素晴らしいことではないか。
もし、人付き合いの予定表が壁に掛かっていたら、思い切って整理しよう。心理学の専門家もそれに賛成している。



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