フラットケーブルのような脳内配線 2012年3月29日 |
脳の配線は古い町並みの曲がりくねった道のように想像するが、実はニューヨーク市の碁盤の目のようであったと最新の研究発表では述べている。 3次元の格子状の骨格をしていて、斜めに走る対角線が存在しない。脳の細胞間の連結は乱雑なケーブルの塊ではなく、コンピューターの中に使われているフラットケーブルのように、同方向に走る神経線維を束ねた構造になっていて、その直角に別のフラットケーブルが交差していたとマサチューセッツ総合病院のバン・ウェディーン氏は説明する。この格子構造は脳全体に一貫していて、人間もサルも共通していた。 「脳の配線のこのような精密画像を得るのは画期的なことです。この進歩により、いつか神経細胞連結の個人差が分かるようになり、病気の治療に役立つでしょう」とインセルは言う。 研究の積み重ねにより、この種の脳スキャナーとしては最強のスキャナーが昨年の秋、マサチューセッツ総合病院に設置された。コネクトム拡散MRIスキャナーと呼ばれ、従来のスキャナーに比べて10倍強化されている。そのため十字に横切る神経線維をはっきり観察できた。 「装置のおかげで、脳の連結構造が思ったより単純明快なのが分かった。脳が成長する上でこの構造が重要なのであろう。成人の脳の配線構造は、胎児の頃に完成された3次元構造が基本になっている」とウェディーンは言う。 脳の成長段階では、神経線維は上下または左右につながる。格子状の構造を見ると、ちょうど高速道路の車線表示のように、神経繊維が方向を乱さないようにしているようだ。もし神経線維の成長方向が4通りだけであれば、整然と連結出来るし、脳の進化に適しているのだろう。 今まで、人間の脳の神経線維の連結構造は長く分からなかった。その理由は、脳の皮質が何層にも重なって見難くしているためであった。動物実験から、配線の格子構造はある程度指摘されていたが、化学物質を神経細胞に送り込んで調べるため人間では実施できなかった。 ウェディーン等の研究は、”人間コネクトム・プロジェクト”の一環で、MRI技術を更に向上させることを目標としている。使われた拡散MRIスキャナーでは、神経線維の中の水の動きを検知する。拡散スペクトラム・イメージング(DSI)と呼ばれる技法により交差する神経線維の方向が見える。 研究では死後の4種類のサル(アカゲザル、ヨザル、マーモセット、ガラゴ)と生きている人間の脳を調べた。判明したのは2次元の繊維シート構造で、平行に走る神経繊維とそれに直角に交差する神経線維があった。この交差構造は脳の全域に及んでいて、記憶とか感情をつかさどる脳でも同様であった。 今まで見えたのは脳の中央だけで脳の外側は見えなかったが、新しいコネクトムスキャナーでは脳全体の75%まで見ることができるとウェーディーンは言う。 より大きな鏡を持つ望遠鏡がより鮮明な映像が得られるように、新しいスキャナーも、磁界を強化することで解像度を向上させることが出来る。この新しいスキャナーでは、グラディエントと呼ばれるより強い磁力を持つ銅のコイルを使っている。グラディエントは磁界を変化させることができ、脳の各所を固定して観察できる。 コネクトム・スキャナーのグラディエントは普通のスキャナーの磁力に比べて7倍も強化されているので、従来のスキャナーでは数時間要した検査が数分で終了する。 「今まで目的地に行くのに簡単な言葉の指示だけであったものが、今は高速道路と一般道路の接続まで書いてある地図が得られたようなものです。普通の屋内電線配線では、その末端に別の線を接続するだけですが、脳内配線では格子を変化させながら行う。格子の変化が脳の言語なのです」とウェディーンは言う。 脳科学ニュース・インデックスへ |