細菌叢変化と不安

2022年2月14日
カリフォルニア工科大学


カリフォルニア工科大学の研究チームは、マウスの消化器に棲むバクテリアが生産するある代謝物が脳の機能に影響すると発表した。最近、動物の腸に生息する細菌の相が変化すると動物の行動に変化が見られると言う報告が多いが、それを分子レベルで説明したことになる。この研究はNature誌に2月13日掲載された。

数十年前から腸の細菌叢が動物の免疫や代謝に影響するとされていたが、最近ではそれが脳にも影響すると言う。人間でも神経系に問題がある人では、細菌叢が目立って変化していると言う報告がある。

「ある種の細菌の活動と脳の病気の関連に最近注目が集まっているが、実際どのようなメカニズムが働いているかを知るのは大変難しい。腸と脳との会話を何がするのか。分子の移動ならどの分子が脳に影響を与えるのか」とマズマニアン研究所のブリタニー・ニードハムは言う。

今回の研究では細菌の代謝副産物である4エチルフェニル硫酸に注目した。この物質は腸内で細菌活動により生産され、血中に入り体全体を循環する。
2013年にマズマニアン研究所は、4エチルフェニル硫酸が自閉症マウス、統合失調症マウスで顕著に認められるとした。人間でも231人の自閉症の子供を調べたところ、正常な子供に比べて4エチルフェニル硫酸が7倍も高かった。

研究では4エチルフェニル硫酸がどれほどマウスを不安にさせるかを調べる。マウスでの不安の測定は、マウスが新しい環境に入った時の行動で見る。その場で活発に動くならそのマウスの不安のレベルが低いと判断する。

マウスを二つのタイプで分けて、最初のグループでは、遺伝子工学で作成した4エチルフェニル硫酸を産出する細菌を腸に繁殖させ、第二のグループでは4エチルフェニル硫酸を産出しない同種の細菌を腸に繁殖させた。そして両グループを新しい環境にに誘導してその行動を見る。

その結果、4エチルフェニル硫酸を産出する細菌を腸に持つマウスは、新しい環境に順応しないように見えた。即ち不安のレベルが高いわけで、マウスの脳のスキャンを取ると、不安を感知する脳部分が活発化していた。

活発化した脳神経細胞を見ると、オリゴデンドロサイトと呼ばれる細胞が変化していた。この細胞はミエリンと呼ばれるたんぱく質を生産する。ミエリンは脳神経細胞のアクソンと呼ばれる繊維部分を被覆する役割をする。4エチルフェニル硫酸があるとオリゴデンドロサイトのミエリンの成長が遅く電気絶縁度が低下することになる。

不安行動をするマウスにある種の薬を与えてミエリン生産を増加させると、マウスの不安行動は減った。
Nature Medicine誌に載った他の研究では、マウスに経口薬を与えて4エチルフェニル硫酸を除去すると、マウスの不安行動が減ったと報告している。

果たして4エチルフェニル硫酸が不安を起こす原因であるのか人間で確認するために、経口薬で26人の被験者の腸の中の4エチルフェニル硫酸を除去した所、不安のレベルが下がった。

「細菌の代謝生産物が脳に影響するとは驚きだ。しかし何故このようになるかはまだ分からない。この知見が不安症の治療に役立てばよい」とブリタニー・ニードハムは言う。

次の研究課題は、4エチルフェニル硫酸がオリゴデンドロサイトに影響する時のメカニズムだ。どのたんぱく質に影響するのか。あるいは4エチルフェニル硫酸は体の他の部分に最初に影響を与えてその副作用で脳に変化が起きるかを確認することだ。



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