腸内細菌と心の関係

2020年12月11日
パスツール研究所

鬱とは世界で2億6000万人程の人が苦しむ心の病気で、この病気の病理が分かれば世の中への貢献は計り知れない。 2020年12月11日、パスツール研究所、フランス国立保健医療研究所、フランス国立科学研究センターの共同研究がネイチャーコミュニケーションズに発表された。これによると、動物の腸内のバクテリアに狂いが生じると、代謝物生産に影響し、鬱状態を引き起こすのが分かった。

人間の腸内には莫大な数の細菌が住み、腸内微生物叢を構成している。この細菌と人間は相互に利益が得られる関係であると近年の研究は示している。特に最近注目されているのは、微生物叢に異常が起きると心の病気が発生することだ。今回の研究では、微生物叢はフルオキセチン(抗鬱剤)の薬効にも匹敵しているとしている。しかし鬱の原因については未だ多くが分かっていない。

動物を使った実験により、動物が慢性的ストレスを受けるとその微生物叢に変化が生じて、鬱状態を引き起こす事が知られている。この動物の代謝物を調べると、血液と脳内である脂肪代謝物の量が減っていた。エンドカンナビノイドと呼ばれる脂肪代謝物で、体の中では情報交換の役割をしている。これが減れば当然体内の会話が困難になり脳の機能に影響を与える。エンドカンナビノイドが着く受容体は、大麻の有効成分であるTHCが着く受容体と同じで、エンドカンナビノイドの海馬での不足が動物の鬱状態を引き起こしているらしい。

「鬱状態の動物から得られた細菌を健康な脳物の腸に移植すると、健康な動物も鬱状態になる」とパスツール研究所のピエール・マリーは言う。

研究では、鬱状態になった動物の微生物叢を調べ、少なくなった細菌の種類を特定した。鬱状態になった動物に口から不足する細菌を注入すると、脂肪代謝物が通常に戻り鬱状態も消えた。即ち細菌の注入は抗鬱剤の処方と同じ事になり、このような新しい治療を最近サイコバイオティックスと呼んでいる。

「健康な脳を維持するには、腸内に適正な微生物叢を維持する必要があります」とパスツール研究所のジェラード・エベルは言う。
もし微生物叢に狂いが生じると、脂質代謝物に不足が生じ脳の機能を維持出来なくなる。その場合、特定の細菌を投入してバランスを元に戻すわけで、新しい抗鬱剤の登場である。



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