心的外傷は遺伝する

2014年4月13日

激しい精神的外傷は時々人を変えてしまうが、最近の研究によると、その影響は子供にまで及ぶことが分かって来た。チューリッヒ大学とチューリッヒ工科大学が、この遺伝する心的外傷のメカニズムを一部解き明かした。

遺伝する心的外傷は、長いこと心理学の分野で論議の的になって来たが、最近になって、どのような生物学的変化が起きてこの現象が起きるのか説明できるようになった。

「躁鬱病と言う病気がありますが、この病気は家族間に発症しているのが分かっている。しかし、今のところ、その原因となる遺伝子は発見されていない」とチューリッヒ工科大学のイザベラ・マンスイは言う。彼女はチューリッヒ大学の研究グループとともに、遺伝子が直接関わっていないが、家族遺伝性が疑われる心の病気を研究してきた。

マンスイ等は、この病気を引き起こす重要なヒントを短いRNAの分子に発見した。この短いRNAはマイクロRNAと呼ばれ、DNAを下敷きにして作られる。
細胞の中には沢山の種類のマイクロRNAがあり、その役割は細胞の生物活動をコントロールする。例えば、あるタンパク質をどれほど生産するかは、このマイクロRNAの命令による。

研究では、子供の時にトローマを経験したネズミの細胞に現れたマイクロRNAの種類と数を調べ、それをトローマを経験しなかったネズミと比較した。結果はトローマを受けたネズミでは、マイクロRNAの数が変化していた。マイクロRNAの中には過剰に生産されたものもあるし、数が減少していたものもあった。

この変化は当然、細胞活動に影響を与える。トローマを経験したネズミは行動に変化が生じ、例えば、普段は開けた場所を嫌うネズミがあまり嫌わなくなるとか、人間の鬱状態のような症状を呈するネズミも現れた。この行動の変化は一世代の変化にとどまらず、次の世代に、あるいは孫の世代まで受け継がれた。

トローマを経験したネズミの子供ではインシュリンと血糖値のレベルが低かった。
「我々は初めて、トローマが代謝に影響を与え、それが子孫にまで及ぶのを知った。トローマが遺伝するのは、精子の中のマイクロRNAのバランスが変化するからです。この混乱がどのような原因によって起きるのかは、恐らく、体がストレスホルモンを多量に分泌するために、生体内で連鎖反応が起こり、それがマイクロRNAのバランスにまで影響したと解釈します」とマンスイは言う。

重要なのは、トローマばかりでなく、経験により獲得した性質も同様のメカニズムで遺伝すると専門家は考えていることだ。「環境は脳に影響を与え、臓器にも生殖体にも影響をあたえ、次世代に遺伝する」とマンスイは言う。

マンスイは、トローマを受けたネズミではその血中にマイクロRNAの変化が生じるから、これを測定して診断に使えるのではないかと期待している。



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